テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第885話】「5日と500日」 2012(平成24)年7月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第885話です。
 7月22日はロンドンオリンピック開幕まであと5日となる日です。同時に東日本大震災発生から数えて500日目でもあります。あと5日という待ち遠しさに比べて、500日という日にちの経過には、人それぞれの想いがあることでしょう。去年の3月11日以降の地獄のような光景は確かになくなりました。でも、3月11日以前の姿には、まだまだ戻っていないという虚しさがあります。もっと言えば、もうあの姿には決して戻ることができないというところもあり、喪失感は募るばかりです。
 被災地の僻(ひが)20120721_1.jpgみではありませんが、今年の夏を過ぎると、一気に震災のことが風化しないかと心配になります。オリンピックでの日本選手の活躍に一喜一憂して、仕事すら手につかないときに、被災地は二の次三の次になってもおかしくはありません。それに高校野球も加わります。選手たちは、自分たちの活躍で被災地の方を励ましたいと言うことでしょう。確かに選手の一途な姿に感動しない人はいません。オリンピックに出ることも、甲子園に行くことも、それだけでも、並はずれた才能と努力の賜です。同じ人間として、自分たちもと心奮わせる人もいるはずです。
 オリンピックのことで言えば、一度出場を逃したり、メダルに届かなかったとして、次は4年後つまり単純計算で1460日後を目指して、日夜血の滲むような精進の日々を過ごすことになります。500日の約3倍です。そう思えば、被災地がまだ復興にほど遠いとしても仕方がないということではないのです。被災地には4年後という具体的な目標を示せるものが、多くはないということです。目標があっても実現できるかどうかという不安は、常につきまといます。
 500日経って見えてきたものは、3月11日以前に戻せる風景と、戻せない風景があるということです。今まで住んでいたところに、住めなくなった災害危険区域があります。否応なしに住みなれたところを、追われるが如く、転地を余儀なくされる人がいます。それは単に風景が変わるというだけではなく、人と人とのつながりも断ち切ってしまうこともあります。隣同士、地域ぐるみというこれまでの関係が、希薄にならざるを得ないのです。都会ではあたりまえのことかもしれませんが、この故郷においては、人とのつながりは、まさに命綱とも言えます。
 これからの500日1000日、次のオリンピックまでも、この故郷を多くの方が忘れずに、つながりを持ち続けていただけたら、それがこれからの私たちの命綱になることでしょう。そして、どこにいても、どんなに風景が変わっても、太陽は見えますし、見守ってくれると信じて生きていけます。ある人が言いました。「去りゆく夕日は 明日の太陽」。たそがれた気持ちのままでいるつもりはありません。オリンピックの開幕以上に明日の太陽を待ち焦がれて、今日よりももっといい日にしたいと念じています。
 それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

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