テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第788話】「フユが死んだ」 2009(平成21)年11月11日-20日
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第788話です。
「フユが死にました」こんなことを言うと、「何言っているの、まだ立冬になったばかりなのに」と返されそうです。「フユ」はフユでも、季節の「冬」ではありません。徳本寺の池に泳いでいる鯉のことです。今年の夏、錦鯉が11匹池に放されました。その時、それぞれに名前を付けました。名前の付いた鯉がいるとの噂を聞きつけて、わざわざ鯉に会いに来る人もいるほどです。「フユ」は紅白に黒の斑点がある4匹の鯉のうちの1匹でした。その4匹を四季に因んで「ハル」「ナツ」「アキ」「フユ」と名付けました。「フユ」は、比較的色白で、まさに「冬」のイメージでした。しかし、残念ながらその「フユ」が1ヶ月半後死んでしまったのです。
名前を付けていなければ、11匹の「鯉」という普通名詞の1匹が死んだだけと思ったかもしれません。しかし「フユ」という名前が付いていれば、もはや普通名詞ではありません。れっきとした固有名詞になり、具体的にその存在を意識することができます。「あのフユが死んでしまったんだな」という思いに至り、その悲しみは通り一遍以上のものがありました。池のそばに穴を掘って埋葬し、線香をあげて弔いました。
冬の寒さとともに、鯉たちの動きも活発ではなくなります。氷でも張れば、春先まで氷の下でじっとしていることでしょう。全員無事冬を越せるかどうか心配です。「フユ」よ、お前はその名前でみんなのことを厳しい寒さから守ってほしいと願っていたのですが、肝心の守り本尊が、みんなより早く逝ってしまいました。名前負けしたとは思いたくないのですが・・・。
しかし、不思議なことに、この時、同じ池にある蓮の花が咲いたのです。これは「フユ」が放された時に、一緒に生けられたものです。京都の人形寺に伝わる「爪紅一重咲(つめくれないひとえざき)」という品種だそうです。全体は白い花弁ながら、縁は薄いピンク色です。それまでは咲いていなかったのに、まるで「フユ」を弔うかのように、見事な花を咲かせました。蓮は仏教のシンボルの花であることを思いつつ、死にゆく鯉もあれば、咲く花もあると、今更ながら無常を観じました。この蓮にも名前を付けなければいけないでしょうか。差し当たり、蓮ですから「レン」としておきましょうか。「フユ」に未練を残しながら・・・。
ここでご報告いたします。10月のカンボジア・エコー募金は、93回×3円で279円でした。ありがとうございました。
それでは又、11月21日よりお耳にかかりましょう。
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