テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第939話】「骨身」 2014(平成26)年1月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第939話です。
 昨年暮れに同級生の友人が急逝しました。奥様からの喪中のはがきに「夫が63歳にて永眠いたしました」とありました。そこに書いてある私と同じ年齢が信じられませんでした。この歳で亡くなるわけがない、でも事実だとしたらと、俄かに無常観が我がことになりました。
 友人の小学校時代は、相撲が強く、算数が得意で、将棋が上手く、体格がよく、私にないものをたくさん具えていました。警察官となり、故郷を離れてからは、めったに会うことはありませんでした。しかし、筆まめで、年賀状や暑中見舞いを欠かすことはなく、年に何回か手紙もくれました。いつも故郷を想い、友のことを案じる内容でした。昨年8月にいただいた手紙は、震災からの復興について心配してくれていました。「小生は無力のため、何もできず心苦しい限りです」と言いながら、「多忙な日々でしょうが、お身体だけは大切になさって下さい」と結んでありました。「平成25年8月20日午後5時00分記す」という日時の記載が、最後の手紙の最後の一行となってしまいました。
 遠く離れている友の身体を気遣うくらいですから、自分の健康についても十分注意していたはずです。しかし、その日の朝、食事をした後、突然体に変調を来し、あっという間に帰らぬ人となってしまったというのです。第一線での仕事に区切りをつけ、更なる人生を歩むべく、新しい住居を整えていた矢先のことでした。
 さて、今年はうま年ですが、お釈迦さまが説かれた「四馬(しめ)の教え」というのがあります。四馬とは4種の馬のことです。第一の駿馬は、御者(ぎょしゃ)が振り上げた鞭の影を見て走り出す馬、第2番目は鞭が毛の先に触れてから走り出し、第3番目は肉に触ってから走り出す馬。第4番目は骨身に徹しないと走り出さない、いわゆる駄馬のことを指します。
 第一の駿馬にたとえられるのは、遠くの町で亡くなった人のことを伝え聞いても、我がこととして覚悟のできる人。第2の馬のたとえは、自分の町で亡くなった人のことを聞いて、死を身近に思える人。第3の馬は、自分の身内の死を目の当たりにして、無常を観じる人。第4の馬は、自分自身が病気になり、お迎えが来てやっと我が身の終わりを意識できる人を指し、日々大切に生きなければならないと諭しています。
 友人はどんなに遠くにいても、ほんとうに故郷に心を向けていました。被災状況にどれだけ心を痛めていたかわかりません。駿馬の如く、故郷や友のどんな些細な出来事にも、我がことのように喜びや悲しみの想いを手紙に綴ってきてくれました。私たちの年代になれば、あとはのんびり過ごせばいいやなどと、第4の馬に甘んじてしまいがちです。友人は身を以って、人生はいつまでも骨身を惜しまず、第一の馬として走り続けなければならないことを教えてくれました。十分に骨身に沁みました。
 それでは又、2月1日よりお耳にかかりましょう。

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