テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第858話】「笑って涙」 2011(平成23)年10月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第858話です。
 思えば震災当時は、テレビ・ラジオから一般のコマーシャルは消え、お笑い番組なども完全に自粛していました。当然のことです。しかし作家の山田風太郎が「最愛の人が死んだ夜にも、人間は晩飯を食う」と言い放ったように、生きる上で食べることは勿論のこと、泣くことも笑うことも必要なことです。そんな思いもあり、震災から半年経った秋の彼岸供養の折に、落語独演会を行いました。
 青森県出身の落語家である桂歌若師匠に一席伺っていただきました。東北人だけあって、今回の震災には人一倍心を痛めておられました。自分にできることは、被災地の人に落語で笑ってもらい、元気になっていただくことと、各地で精力的に高座をこなしてこられました。
 徳本寺の高座にかけられた出し物は、「竹の水仙」という落語。天下の名工・左甚五郎の伝説話です。左甚五郎が江戸へ行く途中の三島の旅籠(はたご)に泊まります。名前は隠して、朝から酒を飲み、管をまいているだけの、いかにも風采の上がらない男。5日間も泊って3両の宿代が払えないといいます。何と一文無し。追い立てようとしても、平然としています。竹をもって来いとのこと。主人が竹を与えると、部屋に立てこもり、見事な竹の水仙の蕾と竹の花瓶を完成させました。
 「この竹の花瓶に水を入れ、決して切らさぬようにして、竹の水仙の蕾を入れておくがいい。やがて花が咲くはずだ。店先に出し『売り物』と書いておきなさい」。ほどなく熊本の殿様が通りかかり、花が咲いた水仙に目を留め、左甚五郎の作品と見抜き、200両の言い値を300両でお買い上げになります。左甚五郎は迷惑料を含めた宿代50両と儲け分としての100両を主人に渡すのです。そして帰りしなに主人に対し「宿屋にはいろんな人物が訪れる。身なりだけで人の善し悪しを判断してはいけない」と言い残します。すると主人は「これから竹をたくさん買い占めて来るから、山ほど竹の水仙を作って下さい」とお願いしますが、それは聞かず、「縁があったらまた会いましょう」と去っていきました。
 現代にはもはや「左甚五郎」はおりません。まして被災地では、望むべくもありません。竹の水仙の蕾を咲かせるが如くに、この惨状を拭い去り、花を咲かせられるような智恵と腕を、みんなが求められています。この半年間泣くだけ泣いたという方もいらっしゃるでしょう。これから涙するとして、それは笑い転げて出る涙でありたいものです。
 ここでお知らせです。10月30日(日)午後2時より、徳本寺におきまして「第5回テレホン法話ライブ 東日本大震災―涙を超えた想いを語る―」を開催致します。特別ゲストは「歌う尼さん」こと『まけないタオル』のやなせななさんです。入場無料、是非ご参加下さい。
 それでは又、11月1日よりお耳にかかりましょう。

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