テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1296話】「カーンとゴーン」 2023(令和5)年12月21日~31日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1296話です。
「掃除して悪いことはなにもない。奇麗な気持ちになって清々しい」女優の黒木瞳さんの言葉です。大掃除の時期ですが、掃除の功徳というのは確かにあります。
中国の唐の時代、香厳(きょうげん)という禅僧がいました。若いときから聡明で、一を聞けば十を知るほどの博識でした。ある時師匠から、「父母未生以前の一句を示せ」と言われました。未だ生まれいづるその前の心境を言ってみよということです。香厳はこれまで学んだことや知識を総動員して答えます。しかし、何を言っても「それは頭で考えたこと、それは本に書いてある、それは単なる理屈に過ぎない」と言って、ことごとく退けられます。香厳は行き詰まり、「どうか私のためにご教示ください」と懇願します。師匠は「私が教えてもそれは私の言葉であり、お前の心境ではない」と突き放されます。
香厳は自らの愚鈍さを思い知り、これまで学んだすべての本を焼き捨ててしまいます。もはや仏法を学ぶことは諦めようと決心します。その後、かつて慕った慧忠国師の墓のそばに庵を結び、墓守をしながら坐禅に励みました。そして、掃き掃除をしているとき、箒で飛ばされた小石が竹に当たり、カーンと響きました。その途端香厳は、ハッとして大いなる悟りを得ることができました。曰く「一撃、所知を忘ず」つまり、竹に小石が当たった音は、ゴツンと一撃を食らったかのようで、一瞬にしてすべてのものを忘れさせてくれた。心につかえていたわだかまりやとらわれもなくなったという意味でしょう。
下手な理屈や知識にとらわれて、頭の中だけで禅を理解しようとしても、それは本物ではありません。香厳は無心になっての掃除の功徳もあって、父母未生以前つまり、生まれる前の純粋無垢で清々しい心境に至ることができたのです。修行すれば悟られるという見返りを求めている間は、邪念の塊です。
さて、私たちも年末に当たり、香厳の大いなる悟りとまではいかなくても、プチ悟りを目指してみましょう。先ずは身の回りを掃除をして、香厳が本を焼却したように、これまでにため込んでしまった必要ないものを処分してみましょう。かなり清々しい気持ちになり、プチ悟りを味わうことができます。それから肝心なことは、心の大掃除です。誰しもこの一年、辛いことや嫌なことがあったはずです。その沈んだ気持ちのまま、年を越すのは精神衛生上好ましくありません。漫画作家の小池一夫さんは言いました。「過去には本当につらい日もあったンだけど、今日はあの日から一番遠い日」。一年の一番端っこにある大晦日に、除夜の鐘を聴いて、心をリセットしては如何ですか。香厳の大いなる悟りはカーンという竹の音でしたが、除夜の鐘はゴーンで、音だけは大いなる悟りを勝っています。
それでは又、新年1月1日よりお耳にかかりましょう。
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