テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1289話】「母の彼岸花」 2023(令和5)年10月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1289話です。

 〈蝉の声 消えて気づけば草土手に にょっきり居並ぶ彼岸花たち〉文明 お盆のころ咲き誇っていた百日紅と交代するかのように、彼岸花が突如出現するのが例年のことでした。しかし、今年は暑さのせいか、どこでもその開花は遅れたようです。

 さて徳本寺の末寺の徳泉寺は、海のそばにあったため東日本大震災の大津波で、本堂などすべてが流されました。瓦礫すら残っていなくて、境内は白い砂浜状態でした。墓石はすべてなぎ倒され、骨堂まで抉られて、遺骨が散乱したところもありました。多くのボランティアのおかげもあって、墓地内に堆積した砂を運び出し、何とか元のように墓石を再設置することができました。

 それから数年後、お墓の片隅に彼岸花が咲いているのを見てびっくりしました。大津波で何もかも流されて、草一本も生えないだろうと覚悟をしたので、彼岸花は奇跡の赤い色に見えました。彼岸花は球根ですので、普段は茎も葉っぱも見えません。その存在は花が咲いた時しかわかりません。

 いったい誰が植えたのだろうと疑問でした。最近その謎が判明しました。彼岸花が咲いているすぐそばのお墓の近江さんが、手入れをしていたのです。今から20年近く前、近江さんのご主人が亡くなられて、お墓参りをするうちに彼岸花を見つけ、少しずつ集めて増えていったようです。それにしても大津波にも流されず、土の下でじっと耐えて、復興に向かう人々を励ますかのように花を咲かせた彼岸花の健気さに拍手です。

 最近近江さんはお歳のこともあり、あまりお墓参りができませんでした。しかし、娘さんが節目節目のお参りを欠かしません。彼岸花の球根が埋まっているあたりに、かわいらしい柵を巡らしました。踏みつけられないようにという配慮です。残念ながら今年の春、近江さんは亡くなられました。そして初めて迎える彼岸だというのに、花は咲きませんでした。彼岸花もその死を悼んでいるというのでしょうか。

 彼岸花は、花は咲いても実はなりません。繁殖は地下茎で行いますので、昆虫に受粉を助けてもらう必要はありません。それなのに、惜しげもなく花蜜を差し出し、昆虫の役に立っています。無償の愛とでもいいましょうか。それは近江さんが人知れず彼岸花を育てていた姿にも重なります。その無償の愛に応えるように、娘さんは手入れを受け継いでいます。実は彼岸花も近江さんの愛を忘れてはいなかったのです。彼岸も過ぎた10月2日に、近江さんのお墓のそばで一輪花を咲かせました。その日は近江さんの月命日でした。「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同(年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず)」近江さんが亡くなっても、彼岸花は毎年花開き、亡き人の霊を慰め、お墓参りの人を励まし迎えてくれることでしょう。

 ここでお知らせいたします。9月のカンボジアエコー募金は、1,470回×3円で4,410円でした。ありがとうございました。それでは又、10月21日よりお耳にかかりましょう。



彼岸花

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