テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1287話】「無縁墓」 2023(令和5)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1287話です。

 平成19年頃にヒットした「千の風になって」は、「私のお墓の前で泣かないで下さい そこに私はいません 死んでなんかいません ・・」と歌っています。まるでお墓には何もないかのようです。しかし歌の作者新井満さんは言います。「お墓は亡き人の『現住所』で、そこからどこへでも出かけるでしょう」。その出かける先とは、私たちが故人を偲ぶ思い出の地や山や川などの、いわゆる「仏が宿る」ところなのかもしれません。

 亡くなって「住所不定」と思われては忍びないことです。お墓は亡き人の定住地として、しっかり守りお参りを心がけたいものです。しかし先頃総務省が発表した全国調査によると、公営墓地の6割で管理者がいない「無縁墓」があるというのです。それに伴う管理費の滞納総額は、4億円を超えているとか。全国の墓地・納骨堂は約88万4千カ所ありますが、今回調査の公営墓地は、全体の3.5パーセントにすぎません。実際の数はかなりに上るはずです。単身者が増加して、人口減少が進んでいるのがひとつの原因と思われます。

 徳本寺にも無縁墓はありますが、簡単に撤去はできません。縁故者や墓の継承者に連絡がつかず、同意の確認が難しいからです。将来無縁墓になることを見越して、「墓じまい」や「永代供養」を申し込まれる方もいますが、やむを得ない対応でしょうか。

 お墓には当然ながら、墓石が建っています。また塔婆を立てて供養します。それらは亡き人の定住地の目印と同時に、依代(よりしろ)でもあります。依代とは死者の霊魂が宿るところということです。遺骨は肉体の跡形であり、そこに霊魂を呼んで供養するわけです。勿論その霊魂は日本人は古くから、「ほとけ」と呼び習わしてきました。ほとけとの交流の場が墓参りです。ほとけとなった先祖や故人に対して、私たちの今の姿を報告し、またこれまでの感謝の思いを込めて線香や花を手向けるのです。

 永六輔さんは言いました。「人は二度死にます。一度目は死んだとき。二度目は忘れられたとき」。一度目の死は肉体の死。二度目は家族、友人、仲間など、誰からも忘れられてしまったとき、つまり死者を覚えている人が誰もいなくなったとき、ほんとうに死んでしまうというのです。お墓に来れば、ほとけに語りかけることができ、二度目の死を避けることができます。だからお墓を無縁墓にして、二度目の死を象徴する墓標の如くにしてはいけません。

 ほとけは千の風になって、出かけることもありますが、現住所は不変です。お墓を守る人こそ、行方不明にならないようにしなければなりません。

 それでは又、10月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1317話】
「18歳と81歳」
2024(令和6)年7月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1317話です。 「年齢7掛け説」というのがあるそうです。健康な現代人の年齢は、3割若く数えても大丈夫だということです。60歳なら42歳、70歳なら49歳、80歳なら56歳という風にです。50代・60代の頃はさもありなんと思っていましたが、さすがに70歳を超えると、8掛け・9掛けが現実に即している気がします。 さて、ある方から「... [続きを読む]

【1316話】
「不二山」
2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかにな... [続きを読む]

【1315話】
「一心松」
2024(令和6)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1315話です。 東日本大震災で大津波を目撃した人は、「松林の上から黒い煙が出ているように見えた」と言っていました。最大波12.2㍍ともいわれる津波が、わが山元町の沿岸部の松林を根こそぎ破壊しました。松は養分や水分がなくても育ち、塩害や風にも強いことから、防風林・防砂林として用いられてきました。し... [続きを読む]