テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1280話】「戻る」 2023(令和5)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1280話です。

 6月を過ぎたばかりですが、私の中ではもう、今年を表す漢字一文字が決まりました。それは「戻る」という字です。5月8日新型コロナウイルス感染症が、感染症法上の「5類」に引き下げられました。以来、世の中は普通の生活に戻りつつあります。取り分け、外国人を含め旅行客は、コロナ前に近い賑わいを取り戻しています。

 そんな中、長野県上田市の清水さんという女性から電話がありました。「私は徳泉寺復興のはがき一文字写経をした者です。徳泉寺の本堂が復興したというのを知り、すぐにでもお参りに行きたいと思っていました。しかし、コロナ禍のためできませんでした。今度こそはと思い、是非お伺いしたのです」

 徳本寺の末寺・徳泉寺は東日本大震災の大津波で本堂などすべてが流されました。しかし、全国の方のはがき一文字写経の功徳で、本堂を再建することができました。完成したのは日本でコロナ禍が始まったころの2020年1月のことでした。そして、3月11日には盛大に落慶法要を営み、みなさんにお披露目をしようと準備をしていた矢先のことです。学校が一斉休校になるほどの騒ぎの中、計画は縮小して実行するしかありませんでした。

 さて、清水さんは約束通り6月末に、義理の妹さんと一緒にお出でになりました。「歳も歳なので元気なうちにお参りしたいとずっと願っていました」と言って、流されても奇跡的に無事だった一心本尊さまに手を合わせてくださいました。また全国からのはがき一文字写経も、すべて木札に印字されて本堂内に奉納掲示されていますので、ご自分のも含めて一枚一枚確認されていました。

 因みに清水さんのはがき一文字写経は、「心」という文字でした。彼女は毎朝「一心頂礼 万徳円満・・」と始まるお釈迦さまを賛嘆する「舎利礼文」というお経をお唱えしてから、朝ご飯を始めるそうです。昨日今日の信心ではなく、長年培った仏を思う心が、写経に導いたり、一心本尊さまに是が非でも手を合わせたいという願いにつながったのです。

 コロナ前の賑わいに戻ったとしても、戻らないものがあります。それは年齢です。いつでも行ける会えると思っていたころは、1年2年は気にしないで過ごしていました。しかしコロナ禍の閉塞感は、何もできないまま歳だけは取って、取り返しがつかないと涙を流すほど悲しい思いをした人も多かったはずです。それでも清水さんのように、コロナ禍を超えて必ずお参りに行くのだという信念の持ち主は、ちゃんと3年前の年齢に戻ったような若々しさがありました。もう80歳になるというのですが、バックパックを背負い足取りも軽く、お元気そのものでした。清水さんはたとえ涙を流したとしても、清水という名前の如く、すぐに清らかな水のような心を取り戻せるのかもしれません。そう、涙という漢字は「さんずい」に「戻る」と書きますから。
 
 ここでお知らせいたします。6月のカンボジアエコー募金は、794回×3円で2,382円でした。ありがとうございました。それでは又、7月21日よりお耳にかかりましょう。

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