テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1272話】「迷子にならぬ仏」 2023(令和5)年4月21日~30日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1272話です。

 「1年2年は夢のうち まさかと笑って待てば 3年4年は洒落のうち 数えて待てば 5年かければ 人は貌(かお)だちも変わる」これは中島みゆきの「トーキョー迷子」という歌詞の一節です。出て行った男を待って、迷子になりかけている女の歌です。

 その背景は全く違いますが、この3年間のコロナ禍を連想させます。日本でコロナ騒ぎが起きたのは2020年1月のこと。コロナそのものの実態も分からず、半年せめて1年もすれば落ち着くだろうと高を括っていました。それがなんと1年2年と悪夢を見るような月日を過ごすとは。洒落にもならない3年も過ぎ、人の顔だちの変化以上のスピードで世の中は変わってきました。

 様々な制約があって、できない・やらない・縮小するということが当たり前になり、ちょっと危機感すら抱いていました。例えば年一回しかやらない行事を3年も休んでしまうと、伝えていくことが難しくなります。大本山總持寺では年1回4月に授戒会が行われます。全国から集まった授戒会を修行する戒弟さんが、仏の教えである戒法を授けていただき仏弟子となる式です。その証明書である血脈を式の最後に禅師様より直接いただきます。そのために一週間かけて朝から晩まで様々な修行を加えていきます。規模が大きすぎて、修行僧だけではこなしきれません。多くの和尚さんの手伝いも必要です。

 普段のお寺では行われない特別な法要が続きます。足腰が痛くなるほどのお拝の連続や、薄暗い本堂で懺悔のための「小罪無量」と書いた紙片を焼却したり、修行を成し遂げた戒弟さんが須弥壇に昇り、まさに仏として拝まれるというようなことがあります。コロナ禍のため、この3年間そのようなことを一切行ってきませんでした。現在の修行僧はほとんど授戒会というものを知らないわけです。

 今年やっと再開できました。私もお手伝いに行ってきました。3年間のブランクは大きく、右往左往する修行僧もいました。久しぶりに手伝う私たちも戸惑うことがありました。しかし、感染対策を施しながらも、同じ空間で授戒会を修行できる有難さをしみじみ感じました。懴悔をするときも血脈を授けていただくときも、戒弟さんは禅師様としっかり顔を合わせなければなりません。オンラインやリモートでは授戒にはなりません。

 そして禅師様はこう仰いました。「佐佐木信綱の歌に『山高きみ寺のうちにあるほどは 我もしばしの仏なりけり』というのがあります。本山というこの寺で、立派に修行を加えて、仏の弟子となった戒弟のみなさまを有難く拝ましていただきました。またそのお手伝いにお出でいただいた和尚様方のおかげで、授戒会の灯を消すことなく、次世代につなぐことができました。寺には仏が一番似合います」。迷いのない仏と成った戒弟さんは、コロナ禍の世の中でも、決して迷子にはならないことでしょう。

 それでは又、5月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1352話】
「陰を忘れず」
2025(令和7)年7月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1352話です。 7月7日七夕の日、猛暑日が今年最多の210地点になりました。岐阜県多治見市では38.8度、北海道大樹町(たいきちょう)でも36.3度という体温よりも高いのですからから驚きです。 私が初めて体温以上の気温を体験したのは、今から33年前カンボジアを訪れた時です。カンボジアは内戦がようやく収まりかけていました。その当... [続きを読む]

【第1351話】
「明月院ブルー」
2025(令和7)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1351話です。 「紫陽花や きのふの誠 けふの嘘」正岡子規の句です。紫陽花の色の変化を、人の心の変わりようや迷いに喩えているのでしょうか。紫陽花の季節、アジサイ寺・鎌倉の明月院を拝観する機会がありました。 山門に至る緩やかな石段の両脇に咲く夥しい紫陽花に迎えられました。境内も紫陽花の海という... [続きを読む]

【第1350話】
「欲と水」
2025(令和7)年6月20日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1350話です。 46億年前、地球ができたころ、まだ海はありません。3億年ほど経って、地球の表面が冷めると雨が降り始めました。何と千年間も降り続けたそうです。現在のような海になるまでには、更に7億年を要します。こうして36億年前に生命の起源が海に生じたと考えられます。ヒトの出現はずっと後のことで... [続きを読む]