テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1254話】「平常心是道」 2022(令和4)年10月21日~31日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1254話です。

 「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような・・」と、東京オリンピックの開会式の青空を、NHK北出アナウンサーは表現しました。58年前の10月10日のこと。その名言を借りれば、「半年分の青空が今、大本山總持寺に集まりました」それ程の好天の下、去る10月11日石附周行禅師様の晋山式が行われました。

 晋山とは山に晋むということで、寺の住職に就任するお披露目のことです。古式に則り、境内を行列を組んで本堂まで歩きます。沿道には大勢の人が仏旗を振って迎えます。一世一大の行事です。実はこの式は半年前の4月9日に行う予定でした。しかし、本山内でコロナ感染者が発生したため、延期になっていました。しかも延期の通知が来たのは、式の2日前です。私も重要な役を仰せつかっていたので、荷物をまとめ出かける矢先のことでした。他にも全国のしかるべき老師方も大勢参列が予定されていました。それが直前でできなくなったのですから、すべての準備も水の泡ですし、その影響は計り知れません。しかし、半年かけて何とか立て直し、本来の晋山式が行えるまでになりました。

 さて、晋山式では禅師様と修行僧の間で、禅問答も展開されました。ある修行僧は「禅師様が大事にしていることは何でしょうか」と尋ねました。禅師様曰く「平常心是道(びょうじょうしんこれどう)」。平常心とは「へいじょうしん」のことです。總持寺をお開きになられた瑩山禅師様は、「平常心是道」の因縁をさらに深めて、それは「茶に逢うては茶を喫し、飯に逢うては飯を喫す」ということだと納得し、悟りを得ました。つまりお茶の時はお茶を飲み、ご飯の時はご飯をいただく、まさに日常茶飯事を恙なく勤めることが平常の心であるということです。

 何だそんなことが仏法の神髄かと思うかもしれませんが、どんな時でもそうできるかと言われれば、簡単ではありません。ちょっとしたことで、つまずいたり転んだりして、うろたえる私たちです。ましてや生涯をかけた行事を延期せざるを得ない中で、平常心を保つことは至難なことです。禅師様は淡々と普段のことをこなして、この日を待ったその心意気が、問答における「平常心是道」という答えにつながったのでしょう。そして、見事な青空を呼び寄せました。

 式の終盤に本山関係の幼稚園児からお祝いの花束贈呈がありました。女の子は禅師様にお花を渡し終えると、小さな手で合掌しました。禅師様は相好を崩してお喜びになりました。そして本堂を出ようとしたときに、ハプニングが起きました。着物姿のご婦人が数人突然現れて、花束を差し出されたのです。大変驚かれたようでしたが、大きな花束を高々と掲げて感謝の意を表しました。本堂内は大きな拍手に包まれました。この時ばかりは、禅師様も少し平常心を失ったかもしれません。

 ここでお知らせいたします。10月30日(日)午後2時徳本寺にて「第16回テレホン法話ライブ」を開催いたします。本堂でテレホン法話を直接お話しします。ゲストはバイオリニストの虎太朗さん。入場無料。

 それでは又、11月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1317話】
「18歳と81歳」
2024(令和6)年7月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1317話です。 「年齢7掛け説」というのがあるそうです。健康な現代人の年齢は、3割若く数えても大丈夫だということです。60歳なら42歳、70歳なら49歳、80歳なら56歳という風にです。50代・60代の頃はさもありなんと思っていましたが、さすがに70歳を超えると、8掛け・9掛けが現実に即している気がします。 さて、ある方から「... [続きを読む]

【1316話】
「不二山」
2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかにな... [続きを読む]

【1315話】
「一心松」
2024(令和6)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1315話です。 東日本大震災で大津波を目撃した人は、「松林の上から黒い煙が出ているように見えた」と言っていました。最大波12.2㍍ともいわれる津波が、わが山元町の沿岸部の松林を根こそぎ破壊しました。松は養分や水分がなくても育ち、塩害や風にも強いことから、防風林・防砂林として用いられてきました。し... [続きを読む]