テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1243話】「老師の手」 2022(令和4)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1243話です。

 私たち僧侶は、修行の段階によって、様々な師匠に導かれます。仏門に入る出家得度の師匠は受業師といいます。仏道実践作業の業を授ける師匠ということです。究極の師匠は勿論お釈迦さまで、正式には大恩教主本師釈迦牟尼仏と申し上げます。

 更に私には慈恩師と呼ぶべき師匠がいます。慈恩つまり慈しみ深い恩を受けた方ということです。仙台市の玄光庵前住職伊串昇頴老師です。私は本山での修行を終えてすぐ、ある方の紹介で昇頴老師に巡り合い、玄光庵様のお手伝いをしながら、お寺での実務実践を10年間面倒を見ていただきました。

 老師の第一印象が強烈でした。「これからここで一緒に修行しましょう」と言って、握手を求められました。その時のふんわりとした肉付きの温かい手は忘れられません。どんなものでも受け入れてくださる大きな包容力に満ち溢れていました。その上満面の笑顔で屈託なく話しかけて下さるお姿に、すっかり引き込まれました。

 日々の坐禅やお経の勤めは勿論のこと、炭切り・竹箒作り・墓掃除・塔婆の書き方など懇切にご指導いただきました。また玄光庵様では、ちょうど本堂庫裡を建て替えるという一大事業が控えていました。老師は数多くの檀家さん一軒一軒に丁寧に対応し、その心をつかんで協力を仰ぐ手腕は見事なものでした。建設が始まって間もなく、昭和53年6月宮城県沖地震が発生。震度5で各地でブロック塀の倒壊など甚大な被害がありました。その困難をも乗り越えて、大事業を成し遂げたのです。

 老師の大きく温かい手が象徴するように、どんな人にも好き嫌いなく平等に接して下さいます。どんな事態でも、良いことも悪いことも腹を据えて受け止めて下さいます。まるでスポンジに水が吸収されるが如く、老師の手の中に納まってしまいます。まさにお釈迦さまの手の上にいる孫悟空です。

 老師の還暦を記念して、それまで私のように薫陶を受けた僧侶20人ほどが集まり、お祝いの会を催したときのことです。老師は挨拶で「私はみなさんに教えたことは何もありません。ただ一緒に修行してきただけです。徳のない私がお祝いしていただけるのは勿体ない。せめてそれに報いようと、今日は一日竹箒を作ってきました。これからも境内掃除を心がけます」。老師の域に達して尚、竹箒を作っているのです。孫悟空同様、私たちも老師の大きな手から出ることはできないと納得しました。

 老師は既に住職を退かれておりましたが、6月13日95歳でお亡くなりになりました。火葬場では大勢の僧侶も見送りました。誰からともなく御詠歌の「南無本師釈迦如来」が唱えられ、2人3人と合唱の輪が広がり、火葬場中が荘厳な響きに包まれました。涙ながらにそれを聴き、胸が熱くなりました。当たり前ながら、2500年前のお釈迦さまに会ってはいませんが、45年前の老師との出会いは、私にとってはお釈迦さまとの出会いと同じだったと、心から手を合わせました。

 それでは又、7月11日よりお耳にかかりましょう。

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