テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1238話】「のぞみとひかり」 2022(令和4)年5月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1238話です。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限が3年ぶりにない大型連休は、全国の駅や観光地で大幅に人出が増えたようです。新幹線の予約席数も昨年同期の2倍以上とかで、乗車率も軒並み100㌫を超えました。

 新幹線と言えば、こんな言葉を思い出しました。「のぞみはありませんが、ひかりはあります」。新幹線の駅員さんの言葉です。それを臨床心理家の河合隼雄さんが、切符を買おうとして言われた言葉だったので、彼ははたと頷き、同じ言葉を大声で返すと、駅員さんは「あっ、『こだま』が帰ってきた」とつぶやいたそうな。ちょっと出来過ぎた話です。

 まる2年以上に亘って、コロナ禍のせいで、夢も希望も見失ってしまったという人も多いはずです。マスク着用や手指消毒はたまた、連日県別対抗のような感染者数の報告。半年1年なら何とか我慢しようと思っているうちに、2年以上過ぎました。大型連休でそろそろ「光」を見たかったのでしょう。

 河合隼雄さんは次のような話も紹介しています。海釣りの舟での出来事です。夢中になって釣りをしているうちに、辺りが急に暗くなってきました。慌てて帰ろうとしますが、方角がわからなくなりました。空には月もありません。灯をともしても、全くわかりません。釣り人たちは焦ってきました。するとある人が強い口調で「灯を消せ」と言いました。誰も不思議に思いましたが、その気迫に押されて灯を消すと、いよいよ真っ暗になりました。不安が募るばかりです。しかし目が慣れてくると、遠くの方に浜の町灯りがぼう―と見えてきたのです。それで帰るべき方角がわかり、無事浜に辿り着くことができました。

 誰でも真っ暗闇は不安です。焦って明かりをともそうとしても、我々が持っている明かりはマッチ1本程度のものです。風吹けばすぐに消えてしまいます。それは自分のことしか考えない我がままという明かりだからです。お釈迦さまは生きていく上での苦しみの一番の原因は、無明つまり明かりがない事だと説きました。要するに真理を知ろうともせず、思い通りにならないと悩み迷っている状態が無明です。

 自分中心というちっぽけな明かりに頼っているうちは、辿り着くべき大きな明かりが見えません。普段の私たちは、どれだけ自分中心の望み実現に汲々としていたかを、コロナ禍の不自由さという闇は教えてくれました。だいぶ闇に目が慣れてきました。思い通りにならない最大のものは、マスクでも消毒でもなく、老いて死んでゆくということです。その覚悟をお手伝いするのが寺の役目です。無明の闇を照らす光を光明と言います。徳本寺の山号も「光明山」です。みなさまの行く手には、光があります。ご安心ください。どなたも死ぬという望みはないほうがいいでしょうが・・・。

 ここでお知らせいたします。4月のカンボジアエコー募金は、782回×3円で2,346円でした。ありがとうございました。

 それでは又、5月21日よりお耳にかかりましょう。

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