テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1224話】「聞声悟道」 2021(令和3)年12月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1224話です。

 作家の瀬戸内晴美さんは、51歳で出家して、寂聴という名前を授かりました。出家した者は、心乱さずして仏の声を聴くという「出離者は寂なるか、梵音(ぼんのん)を聴く」に由来しているそうです。惜しまれながら、11月9日99歳で亡くなられました。

 その輝かしい生涯の中でも、一貫して反戦を訴えてきました。湾岸戦争に反対し断食を行ったのは69歳の時。その後もイラク戦争に反対して新聞広告を出したり、93歳で安保法制反対の抗議集会に参加もしています。その命がけの行動は、自らの戦争体験によるものです。曰く「戦争にいい戦争はない。すべて人殺しです」。お釈迦さまの言葉の「己が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ」を思わずにはいられません。

 さて、今年も除夜の鐘の季節になりました。鐘は平和の象徴でもあるように、平和で穏やかな世の中でありますようにという願いを込めて、鐘を撞きます。寺の吊り鐘は特に梵鐘と言います。梵は仏教に関する物事につける言葉です。まさに梵音という仏の声を伝える梵鐘なのです。お釈迦さまも寂聴さんも、争いごとがないようにと人一倍願っていたはずです。裏を返せば、人の世は常に諍いが絶えないということでもあるのでしょう。

 その平和を願わなければならないはずの梵鐘が、戦争に加担した時代がありました。2人の僧侶の歌を紹介します。「弾(たま)となり人殺せしか我が寺の供出させられし釣り鐘は」(広島県岡田独甫)。「梵鐘の供出に臨み別れの会この寺にせしを語る人あれや」(山形県庄司天明)。太平洋戦争の開戦が迫り、昭和16年に出された金属回収令により、全国の多くの寺で梵鐘を供出した事実を歌ったものです。徳本寺でも供出したようです。古い鐘撞き堂には、梵鐘が吊ってあったと思われる梁に穴が残っているだけでした。

 そして最近報道された供出梵鐘の運命について愕然としました。金属資源不足を補うための供出とはいえ、全てが武器になったわけではありません。資源にならずに道端に捨てられたものもあったと言います。更には、神戸の製鉄所では無数の梵鐘が転がっていた上、仮設トイレの便器に、梵鐘が使われました。便器として半ば地面に埋まった梵鐘が並んでいたというのです。

 もはや罰当たりを通り越した驚愕すべき仕業です。梵鐘の供出が既に道を誤っています。それに輪をかけて、便器にまで貶めるとはなんということでしょう。戦争とは見えるものも見えなくさせ、見えないものを見えるかのように錯覚させてしまいます。

 除夜の鐘を聴きながら、寂聴さんを偲び、その名前にあやかって、心静かに仏の教えに浸ってください。聞声悟道(もんしょうごどう)、聞声は声を聞くと書き、鐘の音を聞いて道を悟るということです。平和こそ正しい道です。

 それでは又、新年1月1日よりお耳にかかりましょう。

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