テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1215話】「持戒というブレーキ」 2021(令和3)年9月21日~30日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1215話です。

 被告は「踏み間違いの記憶はない」と一貫して無罪を主張してきましたが、裁判官は「アクセルを最大限踏み込み続けた。ブレーキは踏んでない」と認め、禁固5年の実刑判決を言い渡しました。いわゆる池袋暴走事故の裁判でのことです。

 2019年4月に東京池袋で暴走した乗用車が母と子を死亡させ、9人に重軽傷を負わせました。運転手は旧通産省工業技術院元院長という肩書で、現在90歳という高齢のこともあり、その言動が注目されました。車の異常で暴走したなど、あくまでも自分には過失がないとの主張でした。しかし、車の電子データや「ブレーキランプがついていなかった」という目撃証言などを踏まえて判決は下されました。更に判決は、過失を認めない姿勢を「事故に真摯に向き合い深い反省をしているとはいえない」と批判まで加えています。そして、期限の今月16日までに検察と被告が、控訴しなかったため、実刑判決が確定し、被告は収容されるとみられます。

 アクセルとブレーキの踏み間違いによる人身事故は、過去5年間で2万1千件を超えて、248件が死亡事故につながっています。事故を起こさないように、細心の注意を払うのは当然のことです。しかしふたつ並んであるペダルを、何かの拍子に踏み間違えることがないとはいえません。

 さて、お彼岸ですがその教えには、人間が人間らしく生きていくための道しるべが示されています。そのひとつに「持戒」というのがあります。持つという字と戒律の戒と書きます。戒を保って、節度ある生活態度を習慣づけ、反省することを忘れない生き方をするということです。単にルールを守るというだけではありません。勿論交通ルールを守らなければ、事故につながりますので、それは最低限のことです。そして規則というのは、何々してはならないという罰則が主になっています。

 ところが仏教でいうところの戒は、「してはならない」という意味ではありません。その語源はサンスクリット語の「シーラ」という言葉です。それは「人間として、すべきでないことはしないぞ」と常に思い続け、習慣にしていくことです。もっと言えば、仏の教えに生きるものとして、悪いことをしようと思っても、仏に邪魔されて、道をはずれることができないということです。

 私たちの心にもアクセルとブレーキはあります。戒を保つている人は、踏むべき時にきちんとブレーキを踏むことができます。人間ですから車のブレーキの踏み間違いによって、事故を起こさないとも限りません。問題はその後に、心のブレーキも踏まずに、反省をしないことです。90年もの輝かしい人生を歩んできた人が、1回目にブレーキを踏まなかったとしても、次回も繰り返しては、シーラという持戒を無視した暴走人生になりかねません。自戒を込めて申し上げます。

 それでは又、10月1日よりお耳にかかりましょう。

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