テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1207話】「良薬」 2021(令和3)年7月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1207話です。

 「薬九層倍」という言い方があります。薬は原価の9倍もの売値が付いているということで、その儲け巾の大きさを表しています。その理屈を当てはめるまでもなく、現在一部の製薬会社は大きな利益を得ています。新型コロナワクチンの開発に成功したところです。世界でのその市場は今年で8兆円という試算があります。

 私も先日8兆円の内の1300円の恩恵にあずかってきました。日本で新型コロナウイルスワクチンの接種費用は、1回あたり約1300円だそうです。我が町でもやっと接種が始まりました。小さな町なので、予約の必要もなく、町から指定された日時・場所で問題なく済ませることができました。ファイザー社製のワクチンでした。2回目も自動的に指定され、今月半ばの予定です。

 当然高齢者優先の措置です。車椅子で付き添われた方や耳が遠く説明が聴きとりにくい方もいましたが、みなさん淡々とした対応でした。ワクチン接種後、経過観察ということもあり、すぐには帰れません。係の人がきっかり15分後に、一人ひとりに声をかけ帰っても良いことを促していました。まるでタイム差でスタートする時の駅伝選手のようでした。

 ワクチン接種で万全ということではないでしょう。しかし、説明によれば、接種した場合の発症予防効果は約95%ということでした。もしほんとうに九層倍のワクチンだとしたら、95%くらいの効果はあって然るべきでしょう。先ずは期待しましょう。

 さて、仏の教えにも薬は付き物です。修証義というお経には「早く仏法僧の三宝に帰依し奉りて衆苦を解脱するのみに非ず菩提を成就すべし」とあります。そして「仏は是れ大師なるが故に帰依す、法は良薬なるが故に帰依す、僧は勝友なるが故に帰依す」と示されています。仏とは偉大なる師つまりお釈迦さまで、法は仏の教えで心の病をいやす良薬であるとたとえています。そして僧は仏道を実践する和合衆で勝れた友であるというのです。この仏法僧を3つのたいせつな宝つまり三宝と言います。三宝に帰依することにより衆苦という諸々の苦しみを脱して、悟りという仏の道を成し遂げなさいと説いています。

 コロナ感染という苦しみを克服する良薬はやはりワクチンでしょうか。そして勝友に相当する和合衆は、緊急事態であれ蔓延防止であれ、その不自由さに耐えながら支え合って凌いでいる私たちとも言えます。しかし、肝心の大師たる人物がいません。この国のリーダーは危機管理に対しては右往左往して、説得力のない「安全安心」とか「国民の命を守る」という言葉を、空念仏のように繰り返すばかりです。コロナも三宝が整って終息という道が成し遂げられます。大師不在の三宝では、国民の明日は八方ふさがりになってしまいます。

 それでは又、7月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1288話】
「手拭いと日本刀」
2023(令和5)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1288話です。 その昔、知り合いのお宅に泊めていただいた時のこと。風呂上がりに濡れた手拭いの水を切るつもりで、バサッバサッと振っていたら、当主に叱られました。その音は刀で首を切るときの音に似ているので、家ではしないよう代々教えられてきたというのです。なるほどと反省しました。 その後、無著成恭さんの講演を聴く機会がありました。無... [続きを読む]

【第1287話】
「無縁墓」
2023(令和5)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1287話です。 平成19年頃にヒットした「千の風になって」は、「私のお墓の前で泣かないで下さい そこに私はいません 死んでなんかいません ・・」と歌っています。まるでお墓には何もないかのようです。しかし歌の作者新井満さんは言います。「お墓は亡き人の『現住所』で、そこからどこへでも出かけるでしょ... [続きを読む]

【第1286話】
「夜霧の渡し」
2023(令和5)年9月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1286話です。 「矢切の渡し」は昭和歌謡の代表曲です。「つれて逃げてよ・・」と始まる恋の逃避行の歌で、柴又から対岸の矢切に向かう渡し船が舞台です。矢切の渡しは江戸川で唯一現存するものですが、各地にも現役の渡し船は残っています。考えてみれば、人生も渡し船に乗っているようなものです。 人生の川の... [続きを読む]