テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1168話】「四十九日」 2020(令和2)年6月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1168話です。

 古代ローマにおける暦の起源は、月が新月、上弦、満月、下弦と7日毎に変化するところから来ています。仏教でもこれを取り入れて、人の死後次の「生(しょう)」を受けるまでの間、7日毎に変化が及ぶとされ、これを7回繰り返し、七×七=四十九日で、不安定な霊が次第になごんで祖霊にとけこむと説きます。

 この四十九日間を「中陰(ちゅういん)」といいます。初七日(しょなのか)、二七日(ふたなのか)と、7日毎に特に懇ろにお参りをして、亡き人を偲び、冥福を祈ることが古来より行われてきました。これは喪に服する期間でもあるのです。すぐには死を受け入れられず、悲しみのあまり、普段のふるまいができかねることもあります。当然仕事も休み、家に籠り身を慎む意味で肉魚を断ち、精進潔斎をして、ひたすら供養の時を過ごします。

 そして、中陰が満了して「満中陰」となり、喪に服することから解除される時です。食事も平常食に戻って精進明けとなるわけです。これより正常な生活に復帰しますという発表を兼ねて、「忌明け」「満中陰志」などと記して、供養の品をご縁の方に贈る習俗があります。

 さて、現代においてこれほど厳密に四十九日の供養をできている人はどれほどいるでしょう。親が亡くなっても、会社の忌引きは一週間あるかなしでしょう。そんな社会にとんでもない「49日」が襲ってきました。新型コロナウイルス感染防止のための緊急事態宣言です。4月7日に首都圏を中心に出され、その後全国に及びました。そして5月25日に全国で解除となるまで、ちょうど49日間でした。

 学校の休校、在宅勤務、外出自粛、他県をまたぐ往来の抑制、飲食店をはじめとする店の休業など、世の中の動きが大幅に制限されました。そして四十九日の7日毎の変化のように、これまでの日常生活や価値観の見直しをその都度迫られました。奇しくも古来の四十九日供養の疑似体験をするかのようでした。

 緊急事態宣言で明らかになったように、本来あるべき四十九日供養の実践として、家に籠っていては、世の中は動かなくなるでしょう。しかし、こんな時だからこそという考えもあります。私の知人で親が亡くなった時、ほんとうに49日間毎食家族揃って精進の食事を続けた人がいます。ただ、子どもさんは学校で給食があるので、それは例外としたそうです。親の死は緊急事態であり日常生活が一変します。そしていつもと違う精進の食事という制限ゆえに、普段感じられないことを感じることもあるでしょう。知人は生涯でこんなに親のことや死ぬということを考えた時間はなかった。良い経験だったと言っていました。

 緊急事態宣言の中で、これまでの日常の見直しや、制限の中での対応の可能性を見出している人もいることでしょう。いずれにしても、これからは精進することが始終苦(四十九)にならなくなれば幸いです。

 それでは又、6月11日よりお耳にかかりましょう。

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