テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1146話】「水の怖さ」 2019(令和元)年10月21日~31日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1146話です。
伊豆地方で住職をする私の先輩は、台風19号の天気予報を聴いて、寺の過去帳とおにぎり5個を須弥壇に供えたそうです。気象庁が「1200人以上犠牲者が出た狩野川台風に匹敵する」と報じたからです。狩野川台風は先輩が小学3年の昭和33年9月26~28日にかけて、伊豆半島をかすめて、東海・関東地方に甚大な被害をもたらしました。狩野川が氾濫し、その寺にも水が襲ってきました。子どもたちは最初に寺の高い棚に避難しました。最後に当時住職だった父と母が須弥壇に登って、辛うじて助かったというのです。その教訓を踏まえて、浸水してきたら須弥壇で一夜を過ごそうと覚悟を決めたのです。今回は幸いにして須弥壇に登らずに済みました。
予報通り、狩野川台風に匹敵する台風19号が日本列島を襲いました。12都県で死者・行方不明者は80人を超えています。堤防決壊は59河川90カ所、がけ崩れや土砂災害は211カ所に及びます。千曲川・阿武隈川など名の知れた川や、そこに注ぐ支流の氾濫など、水の恐ろしさを見せつけました。同時に浄水場が水害に遭い、断水を余儀なくされたところもあります。水がいらないところで溢れ、欲しいところに一滴もないとは、やり切れません。
そして、たいせつな方を亡くされたご遺族の悲嘆はいかばかりでしょう。いわき市の68歳の女性は母親と一緒の家にいました。雨が小康状態になったので、2階の寝室で眠りに就きました。間もなく1階の天井近くまで浸水してきました。寝ているはずの母親に水の中で声をかけましたが、返事はありませんでした。母親は100歳で、不自由のない日常生活を送っていました。「まだ寿命はあったのに」と女性は無念さを滲ませています。100年も元気でいながら、このような最期を迎えなければならなかったとは、運命もいたずらが過ぎます。
一方、同じくいわき市で、浸水が50センチある自宅の玄関先で孤立していた女性が、ヘリコプターに収容される際に、40メートルの高さから落下して死亡しました。救助隊員が女性を支える安全ベルトのフックを付け忘れたため、ヘリコプター内の別の隊員に女性を引き渡すとき、誤って落下させてしまったのです。災害と事故による二重の被害は、あまりにも惨すぎます。
東北大災害科学国際研究所は、この度の台風被害を調査した報告の中で次のように述べています。「この雨量で被害を出さないのは不可能。ある程度の被害は許容し、人命だけは守るよう通常の防災対策とは分けて考えるべきだ」。そして気象庁が狩野川台風の例を出して、注意を喚起したのは、具体的な災害状況をイメージさせる狙いもあったのでしょう。ほとんどの人は、まさか自分のところはそうならないと思ったかもしれません。否、少なくともそう願っていました。60年前に水の怖さを身に沁みて感じた先輩のように、いざという時におにぎりを握るくらいの心がまえは忘れたくありません。
ここでお知らせいたします。10月27日(日)午後2時より、徳本寺において「第13回テレホン法話ライブ」を行います。ゲストはソプラノ歌手の千石史子さん。入場は無料です。
それでは又、11月1日よりお耳にかかりましょう。
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