テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1145話】「初対戦の挨拶」 2019(令和元)年10月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1145話です。

 長嶋茂雄さんを「ミスタープロ野球」たらしめた原点は、金田正一さんかもしれません。大学時代華々しい活躍をして巨人に入団した長嶋選手は、1958年4月5日開幕戦で、当時国鉄スワローズの金田投手と初めて対戦します。4打席連続三振に抑えられます。実際は次の対戦の第一打席も三振だったので、5打席連続三振なのです。

 この時、金田投手は前年まで182勝の実績があるプロ野球の第一人者。「大学出たての若いもんに負けてたまるか」と闘志を燃やします。プロの洗礼を受けた長嶋選手は「プロで闘い抜いてやるぞ」と強く思ったと言います。以後7年間で、長嶋選手は金田投手との対戦で、3割1分3厘の打率をマークし、18本塁打を放って、金田投手から最も本塁打を打った打者になっています。

 その金田さんが、10月6日に86歳で亡くなりました。20年間のプロ野球人生での記録は突出しています。通算400勝で2位とは50勝の差。奪三振は4490で2位を1100以上離しています。投球回数は5526回3分の2で、2位を390回以上も上回っています。さすがに負け数も多く、その数は298で最多ですが、2位との差は13に留まります。私が知る限りでも、国鉄スワローズは弱小チームとの印象があります。もっと強いチームにいたら500勝はしたとご本人は豪語しています。

 国鉄で15年間プレーしたのち、強いチーム巨人に移籍します。そこでの5年間は47勝でした。晩年の力の衰えは明らかです。しかし、金田さんが入った年から、巨人の9連覇の大偉業が始まったのです。金田さんがチームに刺激を与えたのでしょう。プレー以外にも、練習の仕方や、徹底した自己管理を通し、野球に向き合う選手の意識改革に結びついたようです。金田さんは、天才的な力はあったのでしょうが、その力を維持するためには、人並み以上の努力が必要であることを身をもって示したのです。

 天才は天才を嗅ぎ分ける嗅覚があるのでしょう。金田さんと長嶋さんの初対戦は、禅宗の「挨拶」そのものです。本来挨拶とは、師匠が弟子の心の成長を質問することを言います。軽く触れることが「挨」、強く触れることが「拶」で、お互いが相手の言葉や振る舞いから、その人となりを確かめることを言います。金田さんは挨拶代わりに、長嶋さんを4打席連続三振に打ち取りました。長嶋さんは律儀にその挨拶に応えて、「ミスタープロ野球」と称されるまでになりました。2人の天才がプロ野球発展の一端を担い、その背番号は巨人の永久欠番になっています。

 ここでお知らせいたします。来る10月27日(日)午後2時より、徳本寺において「第13回テレホン法話ライブ」を行います。ゲストはソプラノ歌手の千石史子さん。入場は無料です。また、9月のカンボジアエコー募金は、177回×3円で531円でした。ありがとうございました。

 それでは又、10月21日よりお耳にかかりましょう。

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