テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1142話】「お斎」 2019(令和元)年9月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1142話です。

 「お斎(とき)」とは、寺院やご法事で出す食事のことを言います。僧侶の食事は元々一日一食で、午前中にとることになっていて、時刻に関わるものであることから、食事を「とき」と呼ぶようになりました。「斎」という字は、精進潔斎の「斎」と書き、汚れを清め行為を慎むという意味があります。そのこともあり、お斎には、肉・魚などを用いない精進料理が提供されます。

 今時の法事で、自分の家でお膳を作ることは、ほとんどなくなりました。料理屋さん任せですが、精進料理が出てくることはまずありません。肉・魚を使わないというだけなら、ある程度できるのでしょうか、値段や見栄えを考慮すると、精進料理は幻の料理になりつつあります。

 この間、とある法事のお膳に着いた時のことです。勿論精進ではなく、結婚式に出しても違和感のないような華やかな料理でした。更に美味しいのですから、いよいよ精進料理は影が薄くなってしまいます。そんなことを思いながら、ある料理を口に運びました。何か細く堅いものを噛みました。その料理の内容からして、魚の骨ではないだろうと思いながら,口から取り出して驚きました。何と3センチくらいの黒い針金だったのです。ぐにゃぐにゃ曲がったもので、どうしてこんなものが、このしゃれた料理に入っているのか理解できませんでした。ともかく係の人に、そっと現物を渡し状況を説明しました。

 時間をおいて料理責任者がお詫びに来ました。理由を尋ねると、問題の料理にはナスを焼いたものが入っていたのですが、ナスを焼いた金網の一部が、壊れてそのまま料理に混入したと思われるということでした。よく考えたら恐ろしいことです。ある程度の長さがあったから異物と気づきましたが、逆にもっと小さな針金で、そのまま呑み込んだら、喉や胃袋を痛めていたかもしれません。

 曹洞宗を開かれた道元禅師は、台所を司る役を典座(てんぞ)と言って、たいへん重んじました。『典座教訓』という書物の中で、微に入り細に入り、料理の心がけを説いています。「先ず米(べい)を看(み)んとすれば便(すなわ)ち砂(しゃ)を看(み)、先ず砂を看んとすれば便ち米を看る」。お米を洗う際は砂が混じっていないか注意し、砂を捨てる際はお米が混じっていないか確かめ、細かいところまで疎かにしないようにということです。

 現代で「お斎」の心を忘れて精進料理でないことを百歩譲っても、人さまの口に入る食べ物を料理するときに、心を込めて細心の注意を払うことは、今も昔も変わらないはずです。金属が混入したお斎だから、「斎は金なり」などと、しゃれている場合ではありません。「斎には命にかかわることもある」ことを肝に銘ずべしです。

 ここでお知らせいたします。8月のカンボジア・エコー募金は、137回×3円で411円でした。ありがとうございました。

 それでは又、9月21日よりお耳にかかりましょう。

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