テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1119話】「一片の悔いもなし」 2019(平成31)年1月21日~31日
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お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1119話です。
平成13年の大相撲夏場所表彰式、当時の小泉首相は「痛みに耐えてよく頑張った。感動した」と叫びました。その時優勝した貴乃花は14日目に右ひざを負傷したものの、千秋楽出場を強行。本割で武蔵丸に敗れ2敗で並ばれましたが、決定戦で勝ったのです。しかし、貴乃花は翌場所から7場所連続休場をして、再び賜杯を抱くことのないまま、10場所目に引退しました。
時は過ぎ平成29年春場所を稀勢の里は新横綱として迎えました。しかし、13日目に左肩を負傷し、テーピング姿で出場。千秋楽の本割で、照ノ富士を破り2敗で並ぶと、決定戦でも下しました。本人も「決定戦ではあり得ない力が出た」と言うほどの奇跡の逆転優勝を果たしたのです。新横綱での優勝は貴乃花以来、4人目という快挙でした。
19年ぶりの日本出身横綱の活躍に、相撲ファンならずとも、日本中が快哉を叫びました。一方、貴乃花の時の強行出場とあまりにも状況が似ていることに、稀勢の里の将来を危惧する声もありました。そして、この度それが現実となったのです。大相撲初場所、初日から4連敗の稀勢の里は、引退を表明しました。劇的優勝後は、8場所連続休場を記録するなど、15日間皆勤したのは2場所のみで、在位中の成績は36勝36敗97の休みでした。
武器である左腕に力が戻らず、貴乃花と同じ轍を踏むことになりました。その人柄である、責任感が強く我慢強さゆえに、けがを押しても出場する以外に選択肢がなかったことは、容易に想像がつきます。日本出身横綱への周囲の期待も、少なからず肩に掛かっていたことでしょう。
貴乃花の横綱昇進時の口上には「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」という言葉が入っていました。これは法華経にある仏語で、仏道のためには身命を惜しまないということです。横綱は位が下がることとはなく、後がない立場です。今この一番に全力を尽くすことは勿論のこと、命をかける思いで立ち向かうのだ、という覚悟が求められます。
稀勢の里とて、けがさえしなければ、横綱としてもっと力を発揮できたはずなのにと、どれだほど悔しかったことでしょう。それでも、引退の弁は「私の相撲人生において、一片の悔いもございません」というものでした。
2年前の絶体絶命からの逆転優勝は、まさにこれで命が絶えてもかまわないという覚悟がもたらした結果でしょう。17年間の現役生活で、自他ともに認める最も輝いた瞬間を持った人に、悔いがあるはずはないと納得しました。私たちの命もやり直しがきかないという点では、後がない横綱と同じですが、果たして人生の引退の時、一片の悔いもないと言いきれるでしょうか。
それでは又、2月1日よりお耳にかかりましょう。
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