テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1118話】「駅伝の襷」 2019(平成31)年1月11日~20日

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1118話です。

 第95回箱根駅伝は1月2日午前8時にスタート。わずか30秒後300mも走らないうちに、大東文化大学の新井選手が、不運な接触で転倒。第2区中継所は、まだ20キロ以上も先というのにです。箱根駅伝は、2日間に亘り、10区間合計217.1キロのコースで争われる壮大なレースです。始まったばかりで棄権すれば、一度も襷がつながらず、個人の区間記録は残っても、チームの全体の記録はなくなります。その事の重大さは、想像を超えるものがあります。

 結果的に、新井選手は脚を引きずりながら、21.3キロを完走し、トップと8分40秒の差で、襷をつなぐことができました。左足は骨に異常はないというものの、肉体的にも精神的にも大きな痛手を受けました。監督も「レースを棄権しなかったのが良かったのかわからない」と言っています。

 駅伝では10人中9人が素晴らしい成績だったとしても、一人の事故で棄権となれば、すべては水の泡です。ましてや、箱根駅伝は日本国中が注目しています。これまで、チームメイトと厳しい練習をのり越えてきていることや、それを支えてくれる裏方のおかげや応援してくれる人々の想いを汲めば、何としても襷をつながなければと思って当たり前です。ただ、選手の将来を見据えた時に、怪我が致命傷となる前に、棄権する勇気を出せるかどうかは、当事者にとっての大きな課題です。

 また昨年も、女子駅伝で究極ともいえる襷つなぎがありました。10月21日全日本実業団対抗女子駅伝予選会でのこと。6区間42.195キロの第2区で岩谷産業の選手が転倒しました。第3区中継所までの300メートルほどを、両ひざから血を流しながら四つん這いになって進み、襷をつなぎました。右足のすねを骨折していたのでした。

 監督は棄権を決定し審判を通じて選手に伝えたものの、選手は続行の意思を示したために、ためらっているうちにレースが成立したのです。その結果、選手は復帰までに、3~4カ月要するという事態を招きました。

 駅伝は日本で100年以上も前に始まった競技で、近年までは他の国では見られませんでした。外国人の個人を重視する合理性には合わなかったのでしょうか。記録という数字だけでは測れない、多くの力を合わせての達成感は日本人好みかもしれません。また逆境を乗り越えて襷がつながれば、より一層感動を呼びます。しかし駅伝選手には、一人で負うよりもずっと重い責任を負わされています。

 その上で言います。「歩歩是道場」という禅語があります。一歩一歩、行動のひとつひとつが、すべて修行の道であるということです。たとえをつなげなかったとしても、長い人生でのひとつの修行。恐れることはありません。そして修行は誰もタスキられません。自分持ちです。それを乗り越えて、「歩歩起清風」。清々しい風を受けてまた走り出しましょう。

 ここでお知らせ致します。昨年12月のカンボジア・エコー募金は、198回×3円で594円でした。ありがとうございました。

 それでは又、1月21日よりお耳にかかりましょう。

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