テレホン法話
~3分間心のティータイム~

第751話「見えない努力」 (2008.11.01-11.10)

 身長175cm、体重80kgという体格は、プロ野球選手としては、際立っているわけでは
ないでしょう。先般、亘理郡内曹洞宗寺院主催の「第19回当世寺子屋講座」で講演していただいた、プロ野球巨人軍で活躍し、大リーグでも投手を務めた桑田真澄さんは、真近かでお会いしても、決っして大きく感じられませんでした。中学時代は更に華奢(きゃしゃ)だったろうと想像できます。
 しかし、野球のセンスは抜群で、打ってよし、投げてよしで「向うところ敵なし、前途洋々たる」ものだったそうです。自信満々でPL学園の野球部に入部。そこで、初めての挫折感を味わいます。先輩は勿論、同級生の中にも、ずば抜けた体格で、目を見張るようなバッティングをする選手がゴロゴロいたのです。
 自分の投げるボールなど、どこにも通用しないことを思い知らされます。自分の力が発揮できるもっと弱いチームの学校に転校しようと本気で思ったそうです。「大好きな野球を途中でやめてどうするの。補欠でも何でもいいから、続けることを考えなさい」という母親の言葉で、目が覚めます。他の選手に較べて、野球では敵わないところがたくさんある。それなら"見えない努力"をしようと思い立ちます。そこが15歳の少年とは思えない非凡さです。
 寮生活で、みんなは毎朝6時30分の起床の時、ひとりそっと6時に起きて、10分間のトイレ掃除と20分間のグラウンドの草取りを心がけるのです。便器二つ程度をきれいにするぐらいと、わずかの面積の草を取るだけです。その努力によって、速いボールを投げられるとか、ホームランを打てるようになるというものではありません。
 しかし、黙々と続けていくうちに、周りが変わってきました。「しまった、ヒットを打たれた」と思っても、誰かがファインプレーでアウトにしてくれたり、「平凡なフライを打った」と思ったところが、風が味方して、ホームランになったりという具合です。
 周りをきれいにしていると、何よりも、自分の心もピカピカに磨かれ、立居振舞いに自信が生まれます。人々をひきつけ、良い巡り合わせがあっても不思議ではありません。いわゆる「陰徳を積む」ということでしょうか。
 そして「陰徳あれば陽報あり」と言われるように、陰徳には善いが報いがついてまわるのかもしれません。勿論、最初からそれだけを期待して善いことをしても陰徳にはなりません。陰徳損得は似合いません。“見えない努力” とは、結果は見ないで、“ただ” 行うことです。
それでは、又11/11よりお耳にかかりましょう。
kuwatasign.jpg
桑田真澄サイン色紙

最近の法話

【第1368話】
「後期高齢者」
2025(令和7)年12月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1368話です。 先月75歳の誕生日を迎えました。いただいたプレゼントは、後期高齢者医療資格確認書です。まだ現役の住職ですし、高齢者だからと甘えてはいられません。それでも年齢は正直です。 亘理郡内に曹洞宗寺院が13カ寺あります。私が徳本寺・徳泉寺という2カ寺の住職を勤めていますので、住職は12人です。その中でいつの間にか最年長に... [続きを読む]

【第1367話】
「安青錦」
2025(令和7)年12月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1367話です。 野球の本場アメリカで、アメリカ人以上の活躍をする日本人の大谷翔平。一方、国技である相撲では、ウクライナ出身の安青錦(あおにしき)が、九州場所で初優勝を果たし、大関に昇進しました。 安青錦の祖国ウクライナにロシアが侵攻し始めたのは、3年前の2022年のこと。出稼ぎをしていた母を... [続きを読む]

【第1366話】
「濁れる水」
2025(令和7)年12月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1366話です。 〈濁れる水の流れつつ澄む〉自由律の俳人山頭火の句です。山頭火は大正14年43歳の時、出家して曹洞宗の僧侶となりましたが、住職になることはありませんでした。44歳から行乞放浪の旅に出ます。「漂泊の俳人」とも称されました。 晩年は愛媛県松山市に「一草庵」という庵(いおり)を結びま... [続きを読む]