テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1377話】「衒(てら)いなき僧侶」 2026(令和8)年3月21日~31日

 

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1377話です。

 「行く」という漢字の間に玄関の「玄」という漢字をはさむと「衒(てら)う」となります。ごまかして真相を見えなくする行いを言います。転じて、才能を誇示する意があります。「奇を衒った文章」などと表現します。

 逆に「衒いのない人」とは、気取ったりひけらかしたりしない人のことです。33年前の1993年松本市で開かれた全国のボランティアの集いで出会った、地元の曹洞宗の住職鳥羽弘純さんはまさに衒いのない人でした。私と同じようにカンボジアを支援する活動をしていました。当時カンボジアでは内戦が終わったものの、難民が多数いました。特に学校が兵舎や家畜小屋になり、子どもたちは劣悪な環境におかれていました。曹洞宗の僧侶を中心に、難民に衣類を贈ったり、学校を建設する運動が各地で展開されました。その仲間がそれぞれの活動を紹介して連帯を深める集いだったのです。

 その時鳥羽さんは「ボランティアは続けなければ意味がないし、続けるためには、やる者が楽しくなければならない」と力説して、突然ギターを持って歌い出したのです。何の衒いもない極めて自然な振る舞いに、私は圧倒されました。学校を1校や2校建てても、カンボジアにとっては砂漠に水をかけるようなもの。しかし、困っている人がいる限りは続けよう。続けるためには、額に皺を寄せるよりは笑顔がいいよ、という彼のメッセージには、熱いものがありました。

 早速私は自分たちの会も「歌うようにボランティアができないか」と思い、三日三晩かけて歌詞を考え、彼に作曲を依頼しました。彼はわずか3分で曲をつけ、電話口で歌ってくれたのです。それからは、カンボジアの子どもたちを想って、私が作詞をして彼が作曲をした楽曲が増えていきました。3年後には『CAMBODIA STORY』という14曲入りのCDが完成し、カンボジア支援に役立てました。恐れ多くもあの小椋佳さんにCDに対する賛を書いていただきました。曰く「お坊さんは身に収めている叡智を何故一般社会に投げかけないのか。お坊さんが歌で自己表現されるのは大歓迎です。CDを拝聴して、法事で通じないお経を聴くよりはるかに説得力があり、何より情熱が伝わってきました」

 鳥羽さんは冗談交じりで「お葬式よりコンサートをする方が多いんだよ」と言っていました。その彼が3月5日76歳で旅立ちました。早々と自分の葬式を迎えてしまったのです。ご遺体のそばには、彼の歌がエンドレスで流れていました。それは何よりのお経でもあります。彼が笑顔で歌えば、どんな高尚な法話よりも説得力があり、みんなを惹きつけて、カンボジア支援を続けられたのです。「花には散った後の悲しみはない ただ一途に咲いた喜びだけが残るのだ」(坂村真民)。鳥羽さん、名前の如く鳥の羽を得たあなたの歌の種は、どこまでも飛んでいき、次なる花を咲かせることでしょう。に生きいなく僧侶とボランティア歌手を貫いた姿に合掌です。

 それでは又、4月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1376話】
「駅伝と復興」
2026(令和8)年3月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1376話です。 今年1月18日に広島市で第31回全国都道府県対抗男子駅伝がありました。宮城県代表チームは2時間16分55秒の大会タイ記録で悲願の初優勝を果たしました。この駅伝の特徴は中学生から社会人までの世代を超えたチーム編成にあります。7区間48㎞を1区4区5区は高校生、2区6区は中学生、3区7区は大学生か社会人が走ります... [続きを読む]

【第1375話】
「被災地のトランペット」
2026(令和8)年3月1日~10日

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【第1374話】
「拈華微笑」
2026(令和8)年2月21日~28日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1374話です。 お釈迦さまといえば、両手を組んで坐禅をしている姿が一般的です。徳本寺の本尊はお釈迦さまですが、「拈華微笑の釈迦」といわれます。右手に優曇華の花を持っています。それには次のような話があります。 お釈迦さまが霊鷲山(りょうじゅせん)で大勢の人を前に説法をなさろうとした時、右手に持... [続きを読む]