テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1362話】「壁と扉」 2025(令和7)年10月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1362話です。

 達磨さんは縁起物として知られていますが、インドから中国に禅の教えを伝えた曹洞宗の祖師です。菩提達磨大師といいます。赤い法衣に身を包み、面壁九年といわれるほど壁に向かって坐禅を組んでいました。その後ろ姿がいわゆるの達磨さんの形になっています。

 坐禅は壁に向かって、ひたすら自分の呼吸だけを意識して、一切の雑念を払う行です。壁の存在は日常の喧騒や誘惑を断ち、気持ちを集中させてくれます。また壁のように動ぜず、一つことに打ち込む不撓不屈の心をも養います。だからここでの壁は、障害となるものではありません。壁に向かって坐禅をした先にある究極の姿は、妄想分別から解き放たれた清々しい自分です。

 さて、先日74歳の男性が病気で亡くなりました。彼は高校生の時、学校でのあることがきっかけで不登校になりました。以来、今日まで家に籠って、普通の社会生活を営むことはありませんでした。隣近所の人でさえ、その姿を見かけた人は誰もいません。家族の方に支えられ、一人ひっそりと暮らしていました。勉強熱心な人で、様々な資格を取得していたようですが、それがどのように活かされていたのかはわかりません。

 誰しも幼い頃、自分が負い目に立たされると、「誰も自分のことを分かってくれない」と自分で壁を作り、他との接触を断ったことがあるのではないでしょうか。いわゆる拗ねた状態です。でもその壁はちょっとした切っ掛けでなくなり、元の姿に戻ることができました。しかし74歳の彼は、おそろしく繊細なそして純真な心の持ち主だったのかもしれません。自分の感性とは異なる人物や世界に対する拒絶反応が、頑丈で高い壁を築いてしまったのでしょうか。

 ある人が言いました。「人生で何かにぶつかった時に それは壁ではなく 扉だと思うと 開けていきますよ」。生きている限り、失敗や挫折を味わうことは、一度や二度ではないでしょう。それが壁のように感じれば、絶望になります。しかし扉だと思えば、ガチャガチャと把手を動かしたり、少し頑張って体当たりをすれば、開くことがあります。希望が隣りにいる感じです。

 扉が開いた先に見えるものは、まさに達磨大師が説いた「廓然無聖」の世界です。廓とは城壁ですが、壁は壁でもがらんとして広々とした世界を創る壁です。つまり澄み渡った秋の大空のように、何のわだかまりもないさわやかな心を象徴しています。それこそが仏教の真髄であるというのです。生きていると感じる究極は、自分の呼吸を意識できた時です。それ以外のこだわりはすべて仮の姿です。壁ですら仮のもの。一息で吹き飛ばせるよう、先ずは坐禅の扉を開いてみませんか。

 ここでお知らせいたします。10月26日(日)午後1時30分より、第19回テレホン法話ライブを開催します。法話に因んだピアノ演奏・御詠歌や映像も加えたライブです。入場無料。また9月のカンボジアエコー募金は、1,078回×3円で3,234円でした。ありがとうございました。

 それでは又、11月1日よりお耳にかかりましょう。

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