テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1329話】「色褪せない思いやり」 2024(令和6)年11月21日~30日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1329話です。

 個人的な話で恐縮ですが、11月21日で74歳になりました。古稀と喜寿の中間で、特別な意味はありません。またこのテレホン法話を始めて、今年で37年になります。これも40年にも満たず、特別感はありません。しかし、37年の倍が74年ということに気づきました。つまり我が半生はテレホン法話と共にあったということです。袈裟を纏った僧侶ゆえの、少し大袈裟な話です。

 37年前の昭和62年12月21日より、突然前住職よりテレホン法話のバトンを渡されました。返事は「イエスかハイ」しかない待ったなしです。当時の心境についてはほとんど覚えていません。ただ、最近古い新聞記事の切り抜きを目にしました。

 それは私がテレホン法話を始める4日前の出来事の記事です。昭和62年12月17日に千葉県で震度5を記録した地震がありました。成田市の26の公立の小・中学校でも、ガラスが割れたり壁が崩れる被害がありました。そしてある小学校の3年生のクラスでの話を紹介しています。

 激しい揺れがおさまって、みんな机の下から出てきました。1人の男の子がいつまでも泣き止みません。担任の先生がなだめながら訳を聞きました。「4つの妹が、ひとりで部屋にいます。お母さんは働きに行っていない。家に帰りたい」と言うのです。先生はその子の家庭が母と子の3人暮らしだったことに気づきました。あわてて男の子の手を引いて家に駆けつけました。ドアを開けると、緊張しきった女の子の顔がありました。次の瞬間、4歳の妹は「お兄ちゃん・・・」と叫んで駆け寄ってきました。たちまち笑顔が戻ったのです。

 その昔どうしてこの記事を切り抜いて保存していたのか、これまた説明に窮します。ただ37年も経った今も、心惹かれる内容であることは間違いありません。第一に地震は今も日常的に各地で発生しています。そんな中でいざというときに家族の絆が大切なことは、誰もが感じてきたことです。4歳の女の子は、1人家に残されて激しい揺れの中、どれほど恐怖を覚え、心細かったことでしょう。そこにやってきたお兄ちゃんは、まさに救世主です。お兄ちゃんは3年生とはいえ、自分もこんなに怖い思いをしているのだから、妹はもっとたいへんなはずだ。早くそばに行ってあげたいという健気な思いやりが、先生の行動を促したのでしょう。

 私は常々思いやりは想像力だと思っています。自分のことしか考えられない人は想像力が乏しいのです。特に困っている人に対して、心から寄り添える人は想像力が豊かな人ではないでしょうか。何の志もなく始めたテレホン法話ですが、それは反省しつつ、我が半生をかけて伝えたかったことの根底にあったのは、この男の子のような心やさしさだったような気がします。時代を越えても色褪せない思いやりには、大袈裟などということはありません。

 それでは又、12月1日よりお耳にかかりましょう。

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