テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1305話】「雪の行脚」 2024(令和6)年3月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1305話です。

 わが山元町は「東北の湘南」などと呼ばれることがあります。宮城県の最南端で太平洋に面しています。温暖で大きな台風もほとんどありません。積雪は年数回程度で、いちごやりんごが名産です。しかし、町の東側約12キロはすべて沿岸部です。それが災いし、東日本大震災の大津波は町の40%を襲い、甚大な被害をもたらしました。以来「東北の湘南」とは言い難くなりました。

 637人の犠牲者の霊を追悼すべく、3月6日に青年僧侶と共に慰霊行脚をしました。なんとその日は雪に見舞われました。「東北の湘南」を自負する者にとって、よりによってこの日に降らなくてもいいではないかと、天を恨みたくなる気持ちでした。しかし、元旦に発生した能登半島地震を思えば、自然界の無常なる振る舞いは、誰に忖度をするわけでもなく、極めて自然な姿なのだと納得せざるを得ません。

 ともかく、大津波で本堂などすべてが流され、その後復興した徳本寺末寺の徳泉寺で、般若心経を唱えて出発です。ゴールは5キロ先の千年塔です。それは徳本寺の中浜墓地跡に建つ日本最大級の古代五輪塔の慰霊塔です。中浜墓地も津波で壊滅状態になり現在は移転しました。途中防潮堤を兼ねた嵩上げ道路を通りました。あたりに民家はなくなり、広大な農地が見渡せます。しかし、その農地のそこかしこで、多数の犠牲者が発見されたのです。唱えるお経にも気持ちが入ります。

 行脚中に唱えるお経は、般若心経が一般的です。「摩訶般若波羅蜜多心経」が正式名称です。「波羅蜜多」とは「パーラミター」で「彼岸に到る」という意味です。彼岸とは悟った人が行くところです。その悟りの内容を般若心経は説いています。「五蘊皆空」すべてのものは空であると言っていますが、空は空っぽということではありません。固定した実体はなく全ては変わっていくものと捉えるべきです。まさに時が過ぎ、形あるものが少しずつ変化する無常のことを言います。

 その空や無常を、腹の底から納得しないと、つい愚痴がこぼれます。どうしてこんな時に雪が降るのと思いながら行脚しては、慰霊にはなりません。「心無罣礙」とらわれない心でひたすらにお経を唱え、歩かなければならないのです。その時「能除一切苦」よく一切の苦しみを除くことができるのです。もがき苦しみ犠牲になられた方へ少しでも慰めの心が届くと信じて行脚すれば、私自身も仏の道を歩んでいると実感できます。

 般若心経の最後は「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶(ぎゃてい ぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼうじいそわか)」という呪文で結ばれます。意訳すれば「行こう 行こう 彼岸へ行こう 共に悟りの道を開こう」となります。行きつく彼岸は湘南のような気候のところでしょうか。いやいやそれにとらわれては、また自然に足を掬われてしまいます。暑さ寒さも彼岸から始まると心することも必要です。

それでは又、4月1日よりお耳にかかりましょう。

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