テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1183話】「スコップ三味線」 2020(令和2)年11月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1183話です。

 「音楽がなくても死なないが、音楽がなくては生きてはいけない」と言った人がいます。事実、人類は1万年前には、音の響く石を並べて、リソホンという楽器のように奏でていたそうです。古代より音楽は、生きていく上で必要とされてきたのでしょう。

 現代では夥しい種類の楽器が溢れています。そんな中で、身近なものを楽器にして、それを極めている人たちがいます。例えばスコップ三味線です。昭和60年代に津軽三味線の本場青森県の舘岡屏風山が考案したものです。たまたま手元にあったスコップを持ち、曲に合わせて栓抜きでカンカン叩いて、いかにも三味線を弾いているかのように見せたのが始まりとか。宴会芸のつもりが評判を呼び、今や世界大会が催されるまでになりました。

 スコップ三味線とはいえ弦は張っていません。普通に市販されている鉄製の大型スコップです。撥は栓抜きですが、プロ仕様のものは本物の撥と同じくらいの大きさで、湾曲して持ちやすくなっています。それでスコップの裏面を叩いて、三味線のような音を出します。またスコップの柄のところは、三味線の竿に見立てて、指で弦を押さえているような仕草を演じます。

 先日の第14回テレホン法話ライブのゲストにご出演いただいた若葉舞さんは、2年前の第11回津軽スコップ三味線世界大会の優勝者です。新日本舞踊の筆頭師範の上、スコップ三味線の師範でもあります。CDから流れる曲に合わせて演奏します。「津軽じょんがら節」などは、本物の津軽三味線以上の迫力に圧倒されました。またエレキギターの名曲「ダイヤモンドヘッド」に至っては、もはやスコップであることを忘れてしまいました。

 スコップは雪掻きや土の掘り起こしなどに使う生活道具です。形が多少三味線に似ているとはいえ、楽器にまで昇華させるとは、さすが雪と津軽三味線のお国青森です。実際にそのスコップを持たせていただきましたが、作業で使うより重く感じました。若葉さんは軽々と抱えて、縦横に演奏していましたが、それまでには血のにじむような練習があったといいます。その姿を見て、私は思わず「スコップ観音」と呼んでしまいました。そしたら若葉さん曰く「私の誕生日は12月18日です」。何という奇遇、毎月18日は観音様の日なのです。

 観音とは観世音のことで、世音を観じるつまり世のすべての悩み苦しみを聞いてくれるということです。コロナ禍で閉塞感が漂う中、若葉さんの演奏を、観音様からの救いのように思った方もいたようです。ある人のアンケート回答に「コロナの時にすてきなライブありがとうございました。気持ちは明るくなり本当に出席して良かったです」とありました。コロナのせいで、私たちの心の中に閉じ込められていた元気の源を、スッコップ三味線は文字通り掘り起こしてくれました。

 それでは又、11月11日よりお耳にかかりましょう。

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