テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1101話】「不流月」 2018(平成30)年7月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

1101.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1101話です。
 「水急不流月」という禅語は知っていました。言葉は知っていても我がこととして受け止められるかどうかは別です。たまたま東日本大震災が起きた時、床の間にその掛軸がかけてあったのです。それまでは床の間の風景として見ていました。しかし大震災の大津波で、もう一つの住職地徳泉寺の本堂も何もかも流された惨状を前にして、「水急不流月」という言葉が突き刺さってきました。
 急な川の流れは、いろいろなものを流し去ります。しかし川面に映った月影は、決して流されることはありません。急流は我々を取り巻く煩悩であったり、困難や苦しみに例えられます。月は我々が本来具えている仏の心でしょうか。どのような状況であっても、決して動じない不動の生き方と言ってもいいでしょう。
 震災当時、大津波というまさに急流にあらゆるものが流されました。しかし、こんな時こそ「月」という存在にならなければならないとも思いました。そして月への想いが通じたのか、徳泉寺の本尊さまが、震災から24日目の4月3日に無事発見されたのです。奇跡のような本尊さまを、「一心本尊」と名付けました。災難に遭いながらも、みなさまの支えになろうという一心で踏み止まったものと信じてのことです。以来、一心本尊さまは全国に知られるところとなり、復興を願っての「はがき一文字写経」が寄せられ、写経で復興という夢に向かっています。一心本尊さまは、流されない月そのものです。
 さて、朝日新聞には小中高生の「書道」を掲載している欄があります。先日「勇気をもらった言葉」というテーマの書が載っていました。兵庫県の高校一年土取香咲(つちとりかなえ)さんが書いた、「水急不流月」という楷書体の見事な書でした。彼女は今年4月に県立高校に進学して、不安、焦り、緊張など様々な思いを抱いて入学式に臨みました。そんな時、二つ上のお兄さんから届いたメールに次のように書いてありました。「水急不流月 急流は時には岸も削って流れるが、水面に映る月影は流れることはない。周りに流されるな 入学おめでとう」。兄は自分の時間をつぶして、私の受験勉強に付き合ってくれた。その時は気づかなかったけれど、いろいろ心配してくれたんだな、と心から感謝しています。この言葉を胸に、しっかり自分の考えを持ち、充実した高校生活を送りたいと思っています。そんな作品に込められた彼女の言葉も添えられていました。
 私が「水急不流月」という言葉を知ったのは、僧侶になってからのことです。我がこととして受け止められたのは、更に後の大震災を経験してからです。香咲さんは高校一年にして「水急不流月」という言葉に出会え、我がことにしています。彼女の未来に期待します。これからの長い人生にどんな急流が待ち受けようとも、自らが月であることを忘れないでください。そして、時あたかも、香咲さんの近くの西日本で豪雨の大災害があったばかりです。多くの被災者にもこの言葉が届いて、何らかの支えになってていただけたらと願うばかりです。
 それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

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