テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第915話】「方言」 2013(平成25)年5月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

915.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第915話です。
 言葉は生き物であると言います。時代によって変わるもの、なくなっていくものもあります。所によっても違いがあります。そして、ある一定の地域で使われる言語体系を方言といいます。いわゆる標準語に対するものです。たとえばこの辺りでも使われる「おどげでねぇ」とは、「容易ではない」ということです。私もよく存じ上げている和尚さんが、その「おどげでねぇ」ほど、気の遠くなるような作業を50年以上も続けて、2511語の方言を収集して「わかやなぎの方言」という本を出版されました。
 和尚さんは石巻市から、栗原市若柳の現在の寺に入ったとき、生まれ育ったところから35キロ程しか離れていないのに、その言葉の違いに興味を抱きました。以来、メモ帳を離さず、近所のおばあさんから聞いた言葉を中心に、書き留めていきました。整理した単語は大学ノート2冊分になるといいます。今ではほとんど聞かれなくなった言葉もあり、その土地の歴史を物語るものにもなる、貴重な1冊といえるでしょう。収録された言葉の中で、思わずクスッとなったものがいくつもあります。「んだちゃ」は「そうだ」ということですし、「んでねぇ」は「そうでない」という言い方で、私もよく使います。聞く人が聞けば、その感じわかるなあと、ほのぼのとした気持ちにさせられるのが、方言の良いところでしょうか。
 しかし、その方言も、この度の東日本大震災で、消滅する可能性の高い言葉が143語もあることが、東北大学の調査で分かりました。被災地では、自宅を失ったり、原発事故で避難したりし、多くの人がバラバラに移転しています。地域独自の方言を日常的に話していた人が減ると、方言そのものが亡くなると、方言学者は指摘しています。文化庁も、「方言は多様な地域文化の基盤」として、保存と継承に動き出しているといいます。
 原発事故の影響を受けた南相馬市近辺で使われている「えぐね」という言葉があります。これは家の周囲に植える垣根のことで、この山元町辺りでもよく使われます。この言葉も、被災地で使われなくなると、いずれ消滅する危険があるそうです。もっとも、その「えぐね」そのものを、大津波は木端微塵に流し去ったために、言葉以前に現物が消えているところがたくさんあります。
 大津波で流されたものは、山ほどあります。大切な人の命を含めて、目に見える存在がなくなったという喪失感をこれまで抱いてきました。2年を過ぎて、これからは方言のように、目に見えないものまで、消えていくものがあることを、じわじわと納得せざるをえないのでしょうか。形あるものは、条件が整えば、何とか元のようになることもあります。しかし、形のないものが消えたとき、元に戻すことは、「おどげでねぇ」ことなのです。言葉という生き物を活かし続けるためにも、「おしょす」がらず、方言を使いましょう。「おしょす」の意味が分からない人は、是非「わかやなぎの方言」をご覧下さい。
 それでは又、6月1日よりお耳にかかりましょう。

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