テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第864話】「おもかげ時間」 2011(平成23)年12月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

20111221-3JPG.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第864話です。
 辞書にはありませんが、「日にち薬」という言葉は使われています。悲しいこと辛いこと苦しいことは、一日や二日で癒されるわけもなく、ある程度の日数が必要だということでしょう。今年一年を振り返る時、何をおいても東日本大震災を思わないわけにはいきません。ほんとうに悲しく辛い出来事でありました。これからもまだまだ苦しい日々を避けることはできないでしょう。時間がすべてを解決するとは言いませんが、季節が移ろうように、時が経てば心もちも何がしか変わることはあります。
 今年は大震災以来、日にちの意識が違うような気がします。3月11日はどうしても命日であるという意識になってしまいます。亡くなって四十九日だ百か日だという思いを持って、その日を迎えました。その後も毎月11日という日は、月命日ということで、犠牲者のご遺骨にお参りする方が一段と多かったのです。
 年が明けて1月4日は大震災からちょうど300日目にあたります。この間「あれから何日目」ということを、忘れずに過ごしてきたことでしょう。あの頃の笑うことさえ不謹慎のような重苦しさからは、幾分解放されてきています。「日にち薬」の効能が表れても不思議ではありません。時間の有り難さを今年ほど感じたことはないかもしれません。そんな思いでいる時、河北新報社が大震災に因んだ「ありがとうの詩(うた)」を募集していることを知りました。締め切り間際に応募したところ、図らずも460作品の中から「優秀作品50選」に選定されました。
 それは『おもかげ時間』というタイトルの3番まである歌詞です。大切な人を失い、普通の生活が普通でなくなり、忘れ難い想い出の数々が流され、故郷の景色は変わり果ててしまいしました。あれから人々は茫然として、ただ面影を追う日々を送るしかありませんでした。しかし、泥にまみれた瓦礫が取り除かれた大地に立った時、自分の影がちゃんと大地に映っていることに感動しました。面影ではない本物の自分の影がちゃんと確認ができるのです。それは生きているという証でもあります。
 無くなった人や物には、影は生じません。人の心に面影として思い起こすことができるだけです。大地の影は生きていればこそです。そう思えるのも、この300日余りの悲しく辛い日々を、面影と向き合いながら、時に涙し、時に励まされてきたからでしょう。時間は確実に流れました。有り難くも生きている実感を取り戻させてくれました。酒井大岳さんの言葉に「あせらずに悲しみ いそがずに苦しみ ゆっくりと『おかげさま』へ」というのがあります。今年の悲しみ苦しみをすべて流し去ることはできません。でも、年が明けたら少しずつ、「面影のおかげさま」と思えるようでありたいものです。みなさま良いお年をお迎え下さい。
 それでは又、来年1月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1351話】
「明月院ブルー」
2025(令和7)年7月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1351話です。 「紫陽花や きのふの誠 けふの嘘」正岡子規の句です。紫陽花の色の変化を、人の心の変わりようや迷いに喩えているのでしょうか。紫陽花の季節、アジサイ寺・鎌倉の明月院を拝観する機会がありました。 山門に至る緩やかな石段の両脇に咲く夥しい紫陽花に迎えられました。境内も紫陽花の海という感じです。「明月院ブルー」と称される... [続きを読む]

【第1350話】
「欲と水」
2025(令和7)年6月20日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1350話です。 46億年前、地球ができたころ、まだ海はありません。3億年ほど経って、地球の表面が冷めると雨が降り始めました。何と千年間も降り続けたそうです。現在のような海になるまでには、更に7億年を要します。こうして36億年前に生命の起源が海に生じたと考えられます。ヒトの出現はずっと後のことで... [続きを読む]

【第1349話】
「背番号3の背中」
2025(令和7)年6月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1349話です。 好きな数字はと訊かれたら、迷いなく「3」と答えます。勿論長嶋茂雄さんの背番号だからです。小学生の頃その背中に憧れました。ユニフォームなど買ってはもらえないので、「3」という背番号を手作りした覚えがあります。 当時まだテレビはなく、たまにラジオで野球中継を聴くぐらいでした。そし... [続きを読む]