テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1360話】「報恩深し」 2025(令和7)年10月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1360話です。

 徳本寺における年回忌供養の傾向としては、1周忌・3回忌を供養される方は、8割以上にのぼります。年数を経る毎に減少していきます。特に27回忌は3割・2割台に落ち込みます。33回忌で4割台まで盛り返すことがあります。どうも27回忌は忘れられ易いようです。

 そして。今年10月11日は父であり前住職の文英大和尚のまさに27回忌です。勿論忘れるわけはありません。父はその年の8月から仙台の病院に入院していました。出来るだけ面会を心がけ、10月10日にも行きました。というのも翌日から大本山總持寺に出かけて留守になるからです。それは本山で毎年行われる4日間に亘る御征忌会(ごしょうきえ)という大きな法要の手伝いの為です。

 「明日から本山に行ってくるから」と父に告げました。その時父の髭が、結構伸びていることに気づきました。「髭を剃ってあげるよ」と言うと、父は遠慮しました。しばらく面会に来られないという思いもあって、「いいから、いいから」と少し強引に、剃刀を当てました。さっぱりした顔になると、「ありがとう」と小さくお礼を言われました。そして「本山でしっかり勤めて来いよ」という声に送られて病室を後にしました。

 翌11日に本山に向かい、大法要に向けての前日準備を終えて就寝。その夜中に「父死す」の連絡がありました。後のことを同僚に頼み、12日の朝一番で徳本寺に戻りました。遺体は既に庫裡に安置されていました。喪主になる私がいないために、何をどうして良いのかわからず、身内・総代・近隣の人は戸惑うばかりでした。本山に行っていたとはいえ、留守をしていたことをお詫びしました。それから、涙を流す間もなく、葬儀に向けて夥しい打ち合わせや準備作業を経て、無事葬儀を営むことができました。

 父の死に目には会えませんでしたが、本山に行っていたのだから、許してくれるだろうという思いはあります。同時にその後も毎年本山に伺うたびに、負い目を感じないと言えば嘘になります。そこで父の27回忌は思い切って、本山で供養していただくことにしました。本山には「徳本寺24世中興即心文英大和尚」という位牌が特別に祀られています。9月半ば檀家さんと本山参りを兼ねて、前住職の27回忌を営んでまいりました。何十人もの和尚さんのお経の声は荘厳そのものでした。導師をお勤めいただいたのは、「監院(かんにん)」という本山の総責任の役を司る大老師様でした。老師は法要の心を述べる法語の中で、「二十七年報恩深し」という一句を添えてくださいました。

 この27年、僧侶・住職としてどのように寺を守り、人々に寄り添うことが前住職の恩に報いることになるのかと思って、日々過ごしてきました。死に目には会えずとも、死の一日前に髭を剃ってあげたときの温もりは、今も確かにこの両手に残っています。死して尚、恩の深さを感じるばかりです。

 それでは又、10月11日よりお耳にかかりましょう。

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