テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1359話】「波羅蜜」 2025(令和7)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1359話です。

 雨よけに着るカッパは元々ポルトガル語です。漢字では「合わせる羽」と書きます。漢字の音を借用して外国語を表している音訳です。仏教語にもインドの言葉を音訳したものがあります。

 彼岸の教えの「六波羅蜜」もそうです。波羅蜜とは「パーラミター」と言うインドの言葉です。彼岸に渡るという意味があります。そのための6つの努力目標が六波羅蜜です。1つ布施(物や心を施す)、2つ持戒(決まりを守る)、3つ忍辱(挫けず耐え忍ぶ)、4つ精進(ひたすら励む)、5つ禅定(いつも冷静になる)、6つ智慧(善いことを考える)ということです。筆頭にある布施について「其物の軽きを嫌わず、其功の実なるべきなり」と、お経にはあります。つまり布施の多い少ないが問題ではなく、どのような心で布施をするかが大切だということです。

 お釈迦さまが托鉢をしている時、泥遊びをしていた子どもが、泥の団子を差し出しました。大人は「お釈迦さまに何てことをするの」と怒りました。しかしお釈迦さまは「何も持たない子どもが、一心にお布施をしたいという気持ちで差し出した泥の団子の何と尊いことよ」と、子どもを称えたという話があります。

 私にも忘れられない布施があります。50年近く前、横浜にある大本山總持寺で修行を終えて、徳本寺に帰る時のことです。何を思ったか、電車ではなく歩いて帰ることにしたのです。直線距離でも300キロ以上あります。修行に向かう時と同じように、墨染めの法衣を着て、手甲脚絆を付け、網代傘を被った出で立ちです。修行を終えたからと言って慢心することなく、修行を始めた時の発心を忘れるなと、粋がっていたのかもしれません。

 しかし、にわか仕立ての行脚は、早々に足の爪が黒くなり、膝が痛くなったり、病院へ駆け込むなど、想定外の修行が待っていました。ともかく、国道6号線を北上し、ひたすら歩き続けました。結果として9日ほどかかりました。最終日のことです。国道を歩いていると、道路から少し離れたところに家が見えました。そこから小さな男の子がこちらに向かって歩いてくるのです。私のところで止まると、チリ紙に包んだものを差し出しました。家の方に目をやると、縁側にお母さんが立っていました。その方は遠くから私の姿を見て、子どもにお布施を促したのかもしれません。私は驚くと同時に、お釈迦さまの泥の団子のように有り難く受け取りました。まだ膝に痛みはありましたが、長い道のりの辛さが一瞬にして報われました。

 実は寺に戻っても僧侶として生きていけるか不安な思いで歩いていました。しかし、僧侶の姿は、遠くの子どもにも布施をする存在として映るのだと肝に銘じました。その子の心に恥じない僧侶であらねばと、六波羅蜜を思い描き腹をくくりました。あれから50年、怠け癖が溜まったのか、括ったはずの腹も出てきました。とんだ「腹満つ」となりました。

 それでは又、10月1日よりお耳にかかりましょう。

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