テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1353話】「同事」 2025(令和7)年7月21日~31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1353話です。
 
 ドウジはドウジでも「同じ事」と書く「同事」について、『修証義』というお経に「同事というは不違なり、自にも不違なり、佗にも不違なり」とあります。「同事とはたがわぬことで、自分にも他人にもたがわず,そむかぬこと」つまり、自分と他人が同化して一体となることとも言えます。
 
 先日若い住職さんの結婚披露宴にお招きいただきました。結びの彼の挨拶は、この同事に触れたものでした。「父である前住職は、私が中学生の時亡くなりました。昨年17回忌を終えました。父から僧侶として指導を受けることは叶いませんでした。だから檀家さんにどんな法話をしていたのか知る由もなく、住職になったとはいえ、檀家さんにどのように接していいのかわからないことばかりです」と、素直に語り始めました。
 
彼はある時、1本のビデオテープを見つけたと言います。再生してみると、そこには檀家さんに法話をしている父である前住職が映っていたのです。「同事とは相手が悲しんでいる時には、親身になって慰め励まし、相手が喜んでいるときには、我がことのように心から称えることですよ」。同事ということについて分かりやすく説いていました。
 
 そのことにほぞ落ちした彼は、檀家さんへの接し方に迷いがなくなったようです。そして「これからは寺の住職として、檀家さんへの同事行と併せて、今日結婚した妻とも、彼女が困っているときはやさしく寄り添い、うれしい時は共に喜び合えるような日々を築いてまいります」と頼もしく宣言して、万雷の拍手を浴びたのです。
 
 彼の小さい時からの夢は「坊さんになること」でした。それは父の姿を見ていたからでしょう。その父から直接指導を受けられなかったのは無念極まりないことです。しかし、時を超えてもビデオの中から前住職は、息子である現住職に、伝えるべきことを伝えています。更に忘れてならないのは母親の存在です。中学生の息子が一人前の坊さんになる夢を叶えるまでには、並々ならぬご労苦があったはずです。住職がいなくても檀家さんの葬儀や法事は待ったなしです。その都度他の住職さんに依頼しなければなりません。檀家さんへの対応も住職という立場でないので、戸惑うこともあったことでしょう。それもこれも乗り越えて晴れの日を迎えたのです。
 
 『修証義』には同事について次のようにも説いています。「海の水を辞せざるは同事なり。是故(このゆえに)に能(よ)く水聚(あつま)りて海となるなり」。海はどんな川の水も拒むことがないので大海になるということです。小さな川も大きな川も、きれいな川もそうでない川もすべて受け入れます。若き住職の母も、息子の夢の実現を思い描き、喜び悲しみ辛さ悔しさすべてを受け入れて、同事行に励まれたはずです。若いふたりの門出を祝福すると同時に、海より深い母の慈しみに対して心から敬意を表しました。
 
 それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

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