テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1352話】「陰を忘れず」 2025(令和7)年7月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1352話です。

 7月7日七夕の日、猛暑日が今年最多の210地点になりました。岐阜県多治見市では38.8度、北海道大樹町(たいきちょう)でも36.3度という体温よりも高いのですからから驚きです。

 私が初めて体温以上の気温を体験したのは、今から33年前カンボジアを訪れた時です。カンボジアは内戦がようやく収まりかけていました。その当時宮城県曹洞宗青年会では、カンボジア難民に衣類を贈る運動をしていました。日本からの衣類をカンボジアの人たちに直接手渡し、今後どのような支援ができるか視察を兼ねての訪問でした。

 日中はかなり暑く体温を超えていると、この時言われました。なるほど埃っぽい町中のせいばかりではなく、顔面に熱のカーテンでも下がっているかのようです。身体がついていかず何をする気にもなれませんでした。地元の人も、暑い時は木陰のハンモックなどで身体を休めているとか。その頃熱中症などという言葉も知らず、少し昼寝をしてから、午後の行動に移ることもありました。

 そんな時、珍しい光景に出会いました。カンボジアでは自動車もバイクもそれなりに走っていましたが、牛に荷車を引かせている人も当たり前にいました。それこそ牛の歩みでのんびりと走る荷車の下を見ると、一匹の犬がすまし顔で歩いているのです。荷車の下は完全に日陰です。荷車の速さに合わせて歩いていけば、強い日差しを避けて、涼しい道をどこまでもいけるわけです。犬だって涼しいところがいいのです。賢い犬だと感心しました。

 自然界において暑さを避けるためには、日陰にいるのが一番です。カンカン照りの時、ふと日陰に入ると、生き返る気がします。日陰のありがたさを感じる時です。しかし、こんな言葉があります。「暑さ忘れて 陰を忘れる」。この暑さもいつまでも続くわけではなく、やがて季節が移れば、日陰なんかとんでもない、日だまりが恋しいと、人間の勝手な思いが働きます。勿論この陰には「おかげ」という意味も含まれています。暑さでたいへんな思いをしたときのように、苦しい時誰かのおかげで助かっても、ちょっと好転してくれば、あっという間に、そのおかげを忘れてしまうということです。

 さて、宮城県曹洞宗青年会は30年以上に亘って、衣類や学校・絵本などをカンボジアの子どもたちに贈り続けています。その贈呈式でのことです。カンボジアは年中暑い国です。日陰は常に必要です。それなのに子どもたちは、日陰のない炎天下の校庭で、おかげを忘れず私たちを待っていてくれます。そして手を合わせた澄んだ瞳の子どもたちに「コンニチハ コンニチハ」の大合唱で迎えられると、さわやかな涼風に吹かれた気持ちになるのでした。

 ここでお知らせいたします。6月のカンボジアエコー募金は、1,181回×3円で3,543円でした。ありがとうございました。それでは又、7月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1356話】
「平和の鐘」
2025(令和7)年8月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1356話です。 「弾(たま)となり人殺せしか我が寺の供出させられし釣り鐘は」広島県のある住職さんの歌です。先の戦争で、金属類回収令で多くの寺の鐘が供出させられました。徳本寺の旧釣り鐘堂の梁には鐘を釣っていたと思われる穴だけが開いていました。鐘はお国のためになったのでしょうか。 お寺の鐘は平和の象徴と言ってもいいでしょう。それが... [続きを読む]

【第1355話】
「母と地獄」
2025(令和7)年8月11日~20日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1355話です。 アメリカではハリケーンに「ローラ」とか「マリア」という女性名を付けることがあります。しかし、広島に原爆投下した爆撃機B29の愛称がエラノ・ゲイという女性名とは驚きです。 その由来は、爆撃機の機長ポール・ティベッツ大佐の母の名前だというのです。息子である機長からすれば、母は強さ... [続きを読む]

【第1354話】
「八月や」
2025(令和7)年8月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1354話です。 「八月や 六日九日 十五日」詠み人多数といわれる句だそうですが、戦争の重みを訴える力が感じられます。広島と長崎に原爆が落とされ日、そして終戦となった日が詠み込まれているからです。 先日檀家のAさんがお出でになりました。終戦から80年という節目なので、戦死したお父さんの供養をお... [続きを読む]