テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1351話】「明月院ブルー」 2025(令和7)年7月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1351話です。

 「紫陽花や きのふの誠 けふの嘘」正岡子規の句です。紫陽花の色の変化を、人の心の変わりようや迷いに喩えているのでしょうか。紫陽花の季節、アジサイ寺・鎌倉の明月院を拝観する機会がありました。

 山門に至る緩やかな石段の両脇に咲く夥しい紫陽花に迎えられました。境内も紫陽花の海という感じです。「明月院ブルー」と称されるように、一面淡い青色の紫陽花です。2500株もあるそうです。戦後間もなく垣根の代わりに植えられたのが始まりと言いますから、その歴史はまだ浅いのですが、日本で最初にアジサイ寺と呼ばれたところです。寺の歴史は古く、今から865年前の平安時代末期永歴(えいりゃく)元年(1160)の創建です。臨済宗建長寺派に属します。本尊は聖観世音菩薩です。

 さて、紫陽花に圧倒されながらも、お寺へのお参りですので、方丈と言われる本堂に入って本尊さまに手を合わせました。境内の賑わいが嘘のように、堂内は静かです。紫陽花の美しさに心を奪われて、仏さまを拝むことを忘れているかのようです。しかし、本堂を出ると長い列をなしている人々の姿がありました。その列は本堂の脇の間に向かっていました。そこは壁が丸くくり貫かれた円窓(まるまど)があるのです。そこから本堂の後ろの庭を臨むことができ、季節の花々が円窓の中に納まって、絶好の撮影スポットなのです。2列に並んで最前列の者から次々にシャッターを押していきます。込んでいるときは1時間待ちになることもあるとか。四角い窓ならここまでのことはなかったかもしれません。丸がミソなのです。「悟りの窓」といわれているようですが、丸は禅の世界で宇宙を表しています。

 円窓から数メートルも離れていない本尊さまを拝む列はなく、悟りの窓の列は何を物語るのでしょう。誤解を恐れずに言えば、明月院を訪れる人は、本堂で手を合わせるというより、本堂は紫陽花の背景としての景色なのかもしれません。悟りの窓も、宇宙を感じるといより、丸く切り取られた風景の非日常性にひと時、心洗われるからでしょうか。見栄えが信仰心に繋がるといいのですが・・。

 悟りの窓からは見えませんが、本堂の後ろの庭には、青い毛糸を纏った「青地蔵」が祀られていました。そこの立て札に「青は不思議な色 見上げる空も青色 悠久の海も青色 だけど青地蔵は言う 透明な青色はどこにも存在しない」と書いてありました。空や海のように広い心は悟りの心です。究極は透明つまり何らこだわりや迷いもなくなったまっさらな心の人が仏さまです。紫陽花の花の色のように誠や嘘と移り変わる世の中にあっても、本物の青色に出会った今日の感動を忘れずに、心豊かに過ごしてください。そして今度お参りの時は、本堂で手を合わせ、透明な心になれますようにと、青地蔵は偉ぶるーことなく、やさしく語りかけているようでした。

 それでは又、7月1日よりお耳にかかりましょう。



悟りの窓



青地蔵

最近の法話

【第1350話】
「欲と水」
2025(令和7)年6月20日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1350話です。 46億年前、地球ができたころ、まだ海はありません。3億年ほど経って、地球の表面が冷めると雨が降り始めました。何と千年間も降り続けたそうです。現在のような海になるまでには、更に7億年を要します。こうして36億年前に生命の起源が海に生じたと考えられます。ヒトの出現はずっと後のことで... [続きを読む]

【第1349話】
「背番号3の背中」
2025(令和7)年6月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1349話です。 好きな数字はと訊かれたら、迷いなく「3」と答えます。勿論長嶋茂雄さんの背番号だからです。小学生の頃その背中に憧れました。ユニフォームなど買ってはもらえないので、「3」という背番号を手作りした覚えがあります。 当時まだテレビはなく、たまにラジオで野球中継を聴くぐらいでした。そし... [続きを読む]

【第1348話】
「いやしきおどけ」
2025(令和7)年6月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1348話です。 今からちょうど30年前、時の総務庁長官が、日韓関係を巡り「植民地時代、日本は良いこともした」と発言。韓国政府の反発を招き辞任に追い込まれました。その長官は江藤隆美(たかみ)氏です。その後、隆美氏亡き後、宮崎県の地盤を世襲したのが息子の江藤拓(たく)氏です。 先般、時の江藤拓農... [続きを読む]