テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1345話】「草も木もありがとう」 2025(令和7)年5月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1345話です。

 先日「私が愛した野草園―高橋都作品展―」という案内状が届きました。そこには次のような一文が添えてありました。「いろいろお世話になりました。母は94歳で昨年8月17日に永眠しました。母の作品をこのような形で展示することになりました」。差出人は高橋都さんの息子さんです。先ずお亡くなりになったことに、びっくりしました。そして、様々な作品を制作されていたことを少しも存じ上げていませんでしたので、作品展にも驚きました。

 都さんは数年前からこのテレホン法話をお聴き下さっていました。しかもかなり熱心にです。感想などを書いたお便りを何通もいただきました。毎朝あるいは日に何回も聴くこともあったようです。毎日繰り返し聴くことで、3分間の法話の全体がつながりますということでした。直接お会いしたこともお話をしたこともありませんでしたので、その人となりについては知る由もありません。

 ともかく、仙台市の野草園にある展示会場を尋ねました。ちょうど息子さんがいらして、いろいろお話を伺うことができました。都さんは女子高校で長年家庭科の教師を勤めて、70歳を過ぎてから絵を始めたと言います。自宅が野草園の近くだったこともあり、毎日のように通い、そこの草木を描き続けました。また仙台近郊の山々をモチーフにした作品も多数残されました。創作意欲は絵画に留まらず、染織や裂き織で仕立てた作品は、斬新でその色遣いがとても若々しく感じられました。すべての作品には草花や木々の命をいとおしみ、芸術的な風合いを織りなす都さんの心が見事に表現されていました。

 息子さんは次のように語っていました。「母は、亡くなった自分の母親が着ていた襦袢の一部で裂き織のタベストリーを作り、部屋に飾っていました。位牌代わりに手を合わせていたようです。あれが母の作品の原点かもしれません」

 こんな歌があります。「恋しくば おのが躰に触れてみよ かたみにのこる 母の温もり」亡き母を拝むとき、合わせた手と手の間に伝わる温もりは、まさに母よりいただいたものです。都さんも、母親が身につけていた襦袢に母の温もりを感じていたことでしょう。古くなった着物は捨ててしまえばそれまでです。しかし、いま一度工夫を凝らせば、再び命を吹き込むことができます。草花も枯れてはしまいますが、都さんの作品の中で命を輝かせています。自分という命は両親はじめ、どれだけ多くの命に支えられているかを常に思い描き、感謝の心を忘れなかったご生涯だったのでしょう。

 「地球さんありがとう 草も木もありがとう みんなありがとう 94年を生きました」展示会場に掲げられていた言葉です。母の日を前に改めて、都さんのご冥福をお祈りいたします。合掌

 それでは又、5月11日よりお耳にかかりましょう。



高橋都さんの作品

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