テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1338話】「本来の家族葬」 2025(令和7)年2月21日~28日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1338話です。

 「家族とは『ある』ものではなく、手をかけて『育む』ものです」8年前105歳で亡くなった聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さんの言葉です。家族なんて日常生活では、当たり前に「ある」ものだと思ってしまいます。家族の一員を亡くした時、つまり「ある」ものがなくなったとき、どのように対応できるかで、その家族の日常生活が垣間見られることがあります。

 先日お檀家の98歳の女性がなくなりました。17年前長いこと自宅で献身的に介護した旦那さんに先立たれました。ご自分も晩年は介護される身となりましたが、やはり自宅に於いて、家族の方の親身なお世話があり、天寿を全うされました。葬儀には子どもや孫さんは勿論のこと、親類縁者がたくさん集い最後のお別れをしました。しめやかな中にも故人の人柄が偲ばれるとてもいい時間が流れました。

 孫さん4人がおばあちゃんに向かってお別れの言葉を述べました。ある孫さんは、子どもの頃とても心配をかけた時があったけど、おばちゃんはすべてを受け入れてくれて助けてもらったと涙ながらに感謝を伝えていました。別の孫さんは、いつもおばちゃんに言われた「兄弟は仲良く、喧嘩はするな」という言葉を紹介し、「今もちゃんと守っているから」と心強く呼び掛けていました。

 中でもほほえましかったのは、おばあちゃんに保育所の送り迎えをしてもらっていた孫さんの言葉です。「僕の両親は働いていたので、保育所に行くときは、おばちゃんの自転車の後ろに乗せられて通いました。保育所の前に長い坂があります。おばちゃんが自転車を漕ぐのがたいへんそうなので、僕は少しおしりを浮かせ、おばちゃんの腰のあたりを押してあげました。今思えばそんなことをしても、何の力にもならないはずです。でもおばちゃんは、お前に腰を押してもらうととても楽だよ、助かるよと言ってくれました。それがうれしくて、毎日おばちゃんの腰を押してあげました」

 何という心やさしい孫さんでしょう。またそれに応えたおばちゃんは、自転車を漕ぐ以前に、常に孫さんや子どもさんに勿論旦那さんにも、やさしい言葉をかけ、いたわりの態度で接していたのでしょう。手をかけ育んできた家族だったのです。だから、おばちゃんが亡くなったという一大事に於いて、自然に感謝の言葉を述べることができた孫さんたちでした。

 昨今ごく内輪だけでお別れをすることを「家族葬」などと称しています。この度のおばちゃんもそのような葬儀だったら、孫さんの本音を聞くことができたでしょうか。何より多くの人がおばちゃんの人柄やその家族の家族らしさに触れることはできなかったでしょう。その意味では家族の何たるかを示してくれたこの度の葬儀こそ、本来の「家族葬」といえるものでした。  

 それでは又、3月1日よりお耳にかかりましょう。

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