テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1333話】「身(巳)から出た錆」 2025(令和7)年1月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1333話です。

 あけましておめでとうございます。今年の干支の巳という字に似ているものに、已(すでに)と己(おのれ)という漢字があります。書き順の3画目が上にくっついているのが巳であり、中ほどで止めるのが已、下についているのが己です。それを覚えるのにこんな歌があります。「ミは上に、スデニ・ヤム・ノミ中ほどに、オノレ・ツチノト下につくなり」。已はヤムとかノミとも読み、己はツチノトとも読みます。紛らわしいことです。

 巳年に因んで蛇の話をします。「蛇七曲がり曲がりて我が身曲がりたりと思わず」なるほど、蛇は我が身が曲がっていても、曲がっているとは思いません。私たちも自分の短所や間違いに気づきにくいものです。よって反省もせずに、過ちを繰り返すことになります。

 お釈迦さまの前世物語「ジャータカ」には、次のような蛇の話があります。川に仕掛けられた網にたくさんの魚が入っていました。そこに蛇が素晴らしい獲物があるとばかりに入っていきました。ところが多勢に無勢で、たくさんの魚が1匹の蛇を攻め立てました。命からがら、やっとのことで蛇は岸辺に辿り着きました。

 するとそばに1匹の青ガエルがいたので、蛇は尋ねました。「青ガエル君、僕は水の中に入って魚を食べて生きているんだ。網の中の魚をたらふく食べようとしたら、魚は多勢をいいことに僕にかかってきて、傷だらけにしてしまった。こんなことがあっていいと思うかい」「蛇君、それはしょうがないよ。君が魚を食べるなら、魚だって君を食べてもいいはずだよ。普段は君が強いけど、魚たちが力を合わせたら君よりも強くなるんだ。いつも君が強いと思ったら大間違いだよ。誰でも力が強ければ、人のものを奪うことができる。力が弱くなれば、逆に奪われるんだ」。この言葉を聞いて、蛇は心に感じるものがありました。そして急に力が抜け弱々しくなりました。その姿を見た魚たちは、網から出て蛇の命を奪って、悠々と泳いでいきました。

 何やら人間の権力争いにも通じるような話です。弱肉強食の世界、あるいは諸行無常の世界をも暗示しています。いずれにしても、私たちは常に自分中心に物事を考えます。巳という字と己という字が似ているのは、己の中に蛇のような根性つまり自分が一番という思いがあるからでしょうか。已それは曲がった根性です。世の中には通用しません。「身(巳)から出た錆」となりませんよう心しましょう。蛇足ながら申し上げますが、もし錆が出ても、このテレホン法話を聴いていただければ、自分磨きになりますので、今年もよろしくお聴きください。

 それでは又、1月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1366話】
「濁れる水」
2025(令和7)年12月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1366話です。 〈濁れる水の流れつつ澄む〉自由律の俳人山頭火の句です。山頭火は大正14年43歳の時、出家して曹洞宗の僧侶となりましたが、住職になることはありませんでした。44歳から行乞放浪の旅に出ます。「漂泊の俳人」とも称されました。 晩年は愛媛県松山市に「一草庵」という庵(いおり)を結びます。冒頭の句はその頃に生まれたもので... [続きを読む]

【第1365話】
「茶禅一味」
2025(令和7)年11月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1365話です。 茶室は室町時代末期から発展しましたが、その起源は禅宗のお寺にあります。住職の居住する「方丈の間」を標準にしています。方丈とは一丈四方の大きさ、つまり4畳半の部屋です。因みに禅宗の住職の尊称である「方丈さま」の由来でもあります。 日本のお茶の祖と言われるのは臨済宗の栄西です。栄... [続きを読む]

【第1364話】
「熊手と人手」
2025(令和7)年11月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1364話です。 落ち葉の季節、毎朝の掃き掃除で熊手が威力を発揮しています。「熊手」とは言い得て妙です。熊の爪のように先端が曲がった竹が何本もあって、一気に落ち葉を掻き集めてくれます。 しかし、本物の熊の手や爪に出会ったら、危険なことは最近のクマ騒動で知るところです。思えば、昨年11月30日に... [続きを読む]