テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1332話】「プラスの縁マイナスの縁」 2024(令和6)年12月21日~31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1332話です。

 「元旦は卑怯ですよ」。能登半島地震で里帰りをしていた家族を亡くした人の言葉です。正月でなければ家族を亡くすこともなかった。せめて一日でもずれていればとやるせない思いが言わせたのでしょう。

 あれから間もなく1年が経とうとしています。この時期になると誰しもが1年を振り返りますが、被災地では、振り返るのも辛いという方もいらっしゃるでしょう。楽しいはずの正月が、吹き飛んでしまい、非情なる現実となったのですから。最近の報道による能登半島地震の被災者アンケートでは、63%の人が復旧や復興が進んでいないと答えています。地震前から兆しがあった人口減の加速、水道や道路などインフラ復旧や倒壊家屋解体の遅れなど、課題が浮き彫りになっています。

 因みに、13年前の3月に東日本大震災で甚大な被害を被った我が山元町の歳の暮れはどうだったかを思い起こしてみました。道路を含めてインフラは復旧を終え、いよいよ復興へ踏み出そうという時期でした。私も兼務する徳泉寺では伽藍など全て流出してしまい茫然自失でしたが、この頃になり何とかしなければという思いが湧いてきました。そして「はがき一文字写経」を全国の方に呼びかけて、復興を目指す気持ちを固めたのです。9年の歳月を要しましたが何とか伽藍を再建できました。

 縁あって出会うこともあれば、縁あって別れることもあります。いや、別れるのは縁がなかったからではと言うかもしれませんが、別れも縁なのです。プラスの縁もあればマイナスの縁もあります。諸行無常です。私もあなたも等しく1日24時間、1年365日与えられていますが、1日いや1秒たりとも時計の針を戻すことはできません。時計は常に新しい時間を刻んでいきます。

 しかし今年のお正月から時間は止まったままだという方もいるかもしれません。諸法無我です。すべてのものには我というものがないのです。だから変化できるのです。どんな生き物も自分だけで生きていくことはできません。支えられ支えていく、それが縁です。プラスの縁ともマイナスの縁とも向き合うことができたとき、苦しみが和らぎ、時計の針の動きが見えるはずです。私にとって伽藍の流出はマイナスの縁でした。その縁を受け入れ「はがき一文字写経」というプラスの縁に転じることができました。

 「今日の自分は今日でおしまい。明日また新しい自分が生まれてくる」。これは千日回峰行を2度満行した酒井雄哉大阿闍梨の言葉です。千日間で約4万キロ地球1周分を歩き、続けられなくなったときは自ら命を絶たなければならないという命懸けの修行です。過ぎた道のりを振り返るより、次の一歩を踏み出すしかない前向きな気概が伝わります。どなたさまも卑怯でない正々堂々とした正月を迎え新しい自分に出会えますように・・・。

 それでは又、新年1月1日よりお耳にかかりましょう。

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