テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1323話】「土俵に彼岸を見た」 2024(令和6)年9月21日~30日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。

 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではありませせんが、異例なことです。

 相撲は勝負事ですが、神事でもあり神聖なる土俵を突くなどもっての外です。相撲には様々な所作があり礼が重んじられ、国技たる由縁です。勝てばいいというものではありません。モンゴル出身とはいえ、大関ならばそこはわきまえるべきです。もっとも勝負に対する貪欲さがあって、大関にもなり、一連の不遜な態度にもつながっているのでしょうか。

 勝負事以外でも、生きる上では欲は必要です。食欲や睡眠欲など命を保つ上でなくてはならないものです。しかし貪欲は仏教では「貪(とん)・瞋(じん)・痴」という三毒の一つに挙げられます。貪(とん)は貪欲の貪(どん)という字で「むさぼり」、瞋(じん)は瞋恚(しんい)の瞋で「怒り」、痴は愚痴の痴で「おろかさ」を指します。

 彼岸に渡るのに三途の川を越えると言いますが、三毒を克服した先に彼岸があるということです。そのために六波羅蜜の教えがあります。波羅蜜とはサンスクリット語のパーラミターの音訳で、「彼岸に渡る」という意味です。「1布施・2持戒・3忍辱・4精進・5禅定・6智慧」という6つの修行を実践することにより、三毒をなくし、身も心もさわやかに生きられる彼岸に渡りましょうということです。

 豊昇龍の場合は、三毒に呑まれ5つ目の禅定という落ち着き・冷静さに欠けていたのでしょう。翻って3つ目の忍辱つまり苦しみに耐えそれに打ち勝って進むことと、4つ目の精進という力を尽くし怠らず努力することを20年も続けている力士がいます。豊昇龍と同じモンゴル出身の玉鷲です。秋場所3日目に、初土俵から1日も休むことなく1631回の連続出場の新記録を打ち立てました。現在39歳で、2年前の秋場所には、37歳10カ月で2度目の優勝を果たし、最年長優勝の記録も持っています。日本国籍も取得し、あと2年は頑張りたいと言っています。

 19歳のとき、体が大きいということで相撲に関心を抱き、日本に留学していた姉を頼って来て、片男波部屋に入門できました。これまでの最高位は関脇で、十両との往復は6回に及びますが、「ただ楽しく相撲を取っている」と言って現在に至ります。そして「1日1番」のつもりでとる相撲には明日への欲が見えて嫌いだと言います。「明日なんてどうなるか分からない。いつ土俵で死んでもいい」そんな覚悟で毎回土俵に上がるそうです。怪我もし、やめようと思ったこともありながら、連続出場を果たしているのは、勝てばいいという貪欲さを越えた、土俵を彼岸と思える忍耐努力があったればこそなのでしょう。
 
 それでは又、10月1日よりお耳にかかりましょう。   

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