テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1322話】「醍醐味は元気でゆっくり」 2024(令和6)年9月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1322話です。

 牛乳の精製過程の5つの味のうち、最後に出てくる最上の味を醍醐味と言います。仏教ではそれを最高の境地の涅槃にたとえます。そして醍醐の原語は「サルピル・マンダ」で、あのカルピスの名称の元であると言われます。そのカルピスが好物で、116歳の今も元気で世界最高齢に認定されたのは、兵庫県の糸岡富子さんです。

 カルピスと長寿の因果関係はともかく、100歳を超えてかくしゃくとしていられるのは、奇跡に等しいことです。檀家の庄司辰男さんも8月に満100歳を迎えました。とても100歳とは思えないはつらつとした満面の笑顔が、町の広報誌の表紙を飾りました。庄司さんは毎朝、食事の内容や健康状態、興味を持ったことを丁寧にノートに記録して、今でも犬の散歩を欠かさず、規則正しい生活を心がけているそうです。

 実は庄司さんは、東日本大震災のときに壮絶な体験をしています。そのことを3年前に亡くなられた奥様が『小さな町を呑み込んだ 巨大津波』という本に書いています。庄司さんの家は海から1.5キロくらい離れたところにありました。誰もそこまで津波が来るとは思いません。当時家にいたのは庄司さん夫妻と中学2年の孫娘さんと犬一匹。気がついたらもくもくと黒い瓦礫の塊が寄せてくるのが見え、急いで2階に上がりました。2階まで水が入りベランダに出ると、家ごと西に流され、回転して北に流され漂流しながら見えたものは、瓦礫に呑まれた隣りの家、避難途中の知り合いの家族が乗っている車、流されない家の2階に留まって外を見ている男性の姿などなど。

 そして、自宅から約2キロ北に流されて止まりました。見渡す限り瓦礫の海で立ち木も家もありません。そこで助けを待つだけです。辰男さんは「3人束になって、一緒に」と家族を励まします。水が引いてくると、今晩の休むところを用意すべく、机や箱物を集め高く積んで、戸板を置いて、多少濡れているけど布団も用意しました。「声を出せ、何かしゃべれ、眠るな」と夜通し声をかけて家族を勇気づけました。物干し竿に赤いバスタオルを括りつけ、夜明けとともに、旗を振り続けました。その行動を見て、奥様は「夫はすごい人だ。明日に希望を持っている」と思ったそうです。その日のお昼までに、息子さんたちに発見され、無事避難することができました。

 生死の境で、明日に希望を持てるか否かは、健康にも勝る生命力と言えます。それもこれも普段から自分を律して、一つひとつやるべきことを疎かにしない信念があったからなのでしょう。8年前101歳で亡くなったジャーナリストのむのたけじは次のように言っています。「終点には なるだけ ゆっくり 遅く着く それが人生の旅」。元気でゆっくりは人生の旅の醍醐味です。100歳を超えて醍醐味を味わっている庄司さんや糸岡さんに、敬老の日を祝って乾杯しましょう。勿論カルピスで・・・。

 ここでお知らせいたします。8月のカンボジアエコー募金は、976回×3円で2,928円でした。ありがとうございました。
 それでは又、9月21日よりお耳にかかりましょう。  

 

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