テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【1314話】「宥座之器(ゆうざのき)」 2024(令和6)年6月21日~30日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1314話です。
戯れ歌をひとつ。「裏金も キックバックも 何でもあり 勝れる組織 派閥に及(し)かず」。元の歌は山上憶良の「銀(しろがねも)も金(くがね)も玉も何せむに 勝れる宝 子に及(し)かめやも」です。金銀宝石も子どもという宝には及ばないという歌です。我が国の舵取りを担う政党の派閥とやらは、国民という宝よりも、我が身を守るための金銀が大事なようです。
「火の玉となって」国民の信頼を取り戻すと、政治資金規正法の改正案を提示したものの、誰が見てもザル法と思える内容です。例えば10年後に政策活動費の領収書を公開するとは、10年後も議員にさせてくださいというお願いなのでしょうか。政治資金収支報告書の虚偽記載に関する罪の時効は5年なのですから、無意味です。
「先生」と呼ばれることに胡坐をかき、志も矜持も失っているのではないでしょうか。学校で何を習ってきたのでしょう。学校と言えば、日本最古の学校足利学校を訪れる機会がありました。そこに「宥座之器(ゆうざのき)」という座右に置く変わった金属の器がありました。鎖でぶらさっがていますが、斜めになっています。少しずつ水を入れていくと、ちょうどよいところで、器はまっすぐになります。まだ入りそうだと欲張って満杯にすると、器はひっくり返って、水はこぼれてしまう仕組みです。
それは孔子の説いた中庸を教えるものです。孔子が魯の国の桓公廟(かんこうびょう)に行くと、「欹器(きき)」という斜めに立つ器がありました。役人に尋ねると「座右の戒めをなす器である。水が空のときは傾き、ちょうどよいときはまっすぐに立ち、水をいっぱい入れたときはひっくり返ってしまう」とのこと。孔子は早速、欹器を手元に置き、「いっぱいに満ちて覆(くつがえ)らないものはない」と慢心や無理を戒めたといいます。
足利学校では今でも、論語の素読体験を行っています。ちょうど訪れた時も、小学生が論語の素読中でした。先生は机に置いた宥座之器に水をいれながら、孔子の中庸の教えを説いていました。宥座之器の案内板には「腹八分目」の例えが書いてありました。食べ過ぎればお腹をこわし、食べなければ体力がつきません。腹八分目が理想なのです。それを中庸といいます。
食べ物はお腹が受け付けないことはありますが、お金という食べ物は、金庫や引き出しなどに貯めておくことができ、腹八分目を感じにくいのでしょう。今さら派閥の先生方に「火の玉」までは求めませんが、中庸の姿勢で玉のような存在である私たちのために尽くしてください。私たちの宥座之器ならんことを切に念じております。
それでは又、7月1日よりお耳にかかりましょう。
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