テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1293話】「魔法の帚」 2023(令和5)年11月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます


お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1293話です。

縁あって柴田町の船迫(ふなばさま)中学校から生徒手作りの竹帚を3本いただきました。毎年2年生の活動の一環として、地元の方の指導を受け、5月に地元の竹林から竹を切り出し、9月に竹帚作りに励んでいます。その帚で11月には地域の清掃を行うということです。地域に根差した素晴らしい活動です。

落ち葉を掃くというときの、「掃く」という字は、手偏に帚と書きます。掃除の道具として帚はなくてはならないものです。それが地元の素材を使った、しかも自分たちの手作りの帚となれば、愛着も違うでしょうし、掃除にも力が入ることでしょう。もっとも最近は、ブロワーなる文明の利器も出てきて、掃除の仕方にも変化は見られます。ただ、ブロワーは葉っぱを吹き飛ばして集める送風機ですから、それなりの場所に限られます。きめ細かな作業には適していません。

私たち僧侶は、掃除の仕方でその修行力が試されることがあります。落ち葉を掃くときも、庭全体をきれいにすることは勿論ですが、木や植え込みの根元をきれいにしなさいと教えられました。人間でいえば足元がきれいな人、つまり磨いた靴を履いている人は好印象です。どんなに高級そうな服を着ていても、靴が泥だらけでは、がっかりです。

またブロワーにはできない帚の技としては、帚目を立てることです。掃き終わって帚の目が薄っすらついている庭は、単にゴミがないというだけではなく、仕上げがきちんとしているという印象を受けます。また、こんなことも教えられました。ゴミがなくても常に帚の目を立てておくと、草が生えにくくなるというのです。

さて、修行における掃除がどうして大事かと言えば、落ち葉は私たちの煩悩にたとえられます。「掃けば散り 払えばまたも ちりつもる 庭の落ち葉も 人の心も」。まさにその通りです。今の時期毎日枯葉が落ちてきます。今日掃いても、どうせまた明日も落ちて来るからと、サボっては修行になりません。コストパフォーマンいわゆるコスパだけを追求して費用対効果にこだわる対極にあるのが修行です。今日の落ち葉を今日掃くのが修行です。

私たちの心にも、毎日煩悩が湧いてきます。煩悩は自分の都合優先やわがままな心がもたらすものです。ほったらかしておくと、それが当たり前となり、ある種の生活習慣病に陥ってしまいます。毎日落ち葉を掃くように、自分勝手な気持ちを慎む日々の心掛けが肝要です。

船迫中学校の、地域の清掃は、我を捨て他を思いやる行いです。みなさんに喜ばれて、自分たちも清々しい気持ちになることでしょう。その時心のちりも払われたことに気づくはずです。手作りの帚は、もはや「魔法の帚」です。それを持てば掃き掃除と同じように、何事もはきはきと前向きに行動できることでしょう。
それでは又、12月1日よりお耳にかかりましょう。

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