テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1285話】「骨を拾う」 2023(令和5)年9月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1285話です。

 「吾れ死なば 焼くな埋むな 野に晒せ 痩せたる犬の 腹を肥やせよ」自分が死んだら、火葬や土葬にすることなく、野に晒して、痩せた犬の腹を満たしてもらえば本望だという歌です。どなたの歌だと思いますか。絶世の美女と評された平安時代の伝説の女流歌人小野小町の歌です。何と激しい気性が垣間見られる歌でしょう。

 若い頃宮廷につかえ華やかな生活を送りました。あまたの言い寄る男になびくことなく、晩年は諸国放浪の旅の人でした。80歳で京都の補陀洛寺に辿り着き、そこが終焉の地となりました。寺に安置されている晩年の像は、あばら骨が浮き出た老婆の姿とか。まさに「花の色は移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせし間に」です。

 小町ほどの劇的な生涯とは言えないまでも、人が一生を終えるとき、その人の人生を惜しみ、振り返る人が、たくさんいるはずです。実は先日、大学時代の友人Kが亡くなりました。72歳でした。彼は奥さんに先立たれ、子どももいませんでした。晩年信頼する人に最期を託していました。共通の友人から、Kが入院しているとの連絡があったと思ったら、翌日亡くなったとの知らせが入りました。

 本人の希望で、誰にも知らせることなく、葬儀も行わず火葬にだけして、後は海に散骨して欲しいということでした。血縁者がいないわけではないのですが、そこには第三者が立ち入ることができない事情があるのでしょう。しかし、友人の死を告げられ黙っていられる訳はありません。急ぎ10人ほどの友人が火葬場に参列しました。私は立場上、法衣を着てお経のお勤めをし、皆さんにお焼香していただきました。

 そして、収骨の時、火葬場の職員から恭しく説明を受けました。最後に頭の部分と喉ぼとけを納めます。最初は二人一緒にひとつのお骨を箸で拾ってください等々です。収骨のお経を挙げながら、厳粛なお骨拾いの様子を見て思いました。10人だけとはいえ、友人に骨を拾ってもらえて、Kは幸せじゃないか。よく「俺が死んだら、お前に骨を拾ってもらいたい」などと言う人がいます。骨を拾うというのは、自分亡き後の後始末をしてほしいということです。同時にそんなことをお願いできるほど、お前を信用しているということでもあるでしょう。70年を超える生涯を支えたお骨は、無言で小さな箱に収まりました。

 いずれ海に散骨となるようですが、友人としてはいささか割り切れない気持ちです。本人は覚悟の上で、一切この世に自分の足跡も残さないという思いだったかもしれません。しかし、残された者はそう簡単に縁を断ち切ることはできません。「犬の腹肥やせ」と詠った小町も、その墓は全国に点在し、どれが本物か確定できないほどだそうです。骨を埋める覚悟も必要ではないでしょうか。

 それでは又、9月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1362話】
「壁と扉」
2025(令和7)年10月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1362話です。 達磨さんは縁起物として知られていますが、インドから中国に禅の教えを伝えた曹洞宗の祖師です。菩提達磨大師といいます。赤い法衣に身を包み、面壁九年といわれるほど壁に向かって坐禅を組んでいました。その後ろ姿がいわゆるの達磨さんの形になっています。 坐禅は壁に向かって、ひたすら自分の呼吸だけを意識して、一切の雑念を払う... [続きを読む]

【第1361話】
「四足走行」
2025(令和7)年10月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1361話です。 人類の祖先である類人猿が約700万年前に樹上生活から地上に降り、二本足で歩くようになったと言われています。この長い歴史を経て、走る速さも進化しています。現在人類最速の100㍍の世界記録は、2009年にウサイン・ボルトが出した9秒58です。 この二本足進化に逆行するかのように、... [続きを読む]

【第1360話】
「報恩深し」
2025(令和7)年10月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1360話です。 徳本寺における年回忌供養の傾向としては、1周忌・3回忌を供養される方は、8割以上にのぼります。年数を経る毎に減少していきます。特に27回忌は3割・2割台に落ち込みます。33回忌で4割台まで盛り返すことがあります。どうも27回忌は忘れられ易いようです。 そして。今年10月11日... [続きを読む]