テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1279話】「僧侶無料」 2023(令和5)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1279話です。

 「送料無料」という表示が、通信販売の案内に頻繁に出てくるようになりました。送料が全く無料ということはあり得ないでしょう。実際に商品を運ぶ人の賃金やガソリン代などを考えればわかることです。どこかで誰かが負担しなければ、商品は届けられません。売る方で身銭を切ることもあるでしょうが、損してまで商売をする人はいません。商品価格にこっそり含まれているか、運送会社に無理をお願いしているのかもしれません。それでも買う方としては、「送料無料」の謳い文句に購買意欲がそそられます。

 折しも、運送業界では、「2024年問題」への対応に迫られています。トラック運転手の長時間労働が規制されるため、物流が滞るおそれがあるという問題です。全日本トラック協会では、送料無料表示は、消費者の運送コストに対する意識を希薄にさせるので、なくすよう求めています。「苦労して再配達までしているのに、送料無料といわれるとやり切れない気持ちになる」というのが現場の切実な声です。

 送料無料の話で、昔老僧に教えられた「布施なき経は読むべからず」という言葉を思い出しました。お布施をいただかかないお経は、読んではいけないということです。何と非情な和尚さんだろうと思うかもしれません。送料は運送の対価としていただきますが、お経は商品でも労働でもなく、その対価としてお布施をいただくものではありません。だからお布施に定価表はありません。

 布施には、財施と法施があります。財施は一般の人が僧侶に対して金品や食べ物という施物を施すこと。それは執着を捨てることでもあり、仏道修行の第一歩です。財施をしたくても相手がいなければできません。その相手が僧侶で、執着を捨てた境地で一般の人に仏の教えを説くことが法施です。そして「財法二施 功徳無量」といわれます。今できる精一杯の気持ちの布施と、邪念を捨てひたすらに読むお経は、どちらも無量の功徳があるというのです。更に三輪清浄といって、布施する人もされる人も、間に入る施物も、三つの関係が清らかでなければなりません。布施をする人はできるだけ少ない方がとか、受ける方は少しでも多くいただきたいという拘りを捨てることです。極端な話、いくら高額な布施をしても、盗んだお金だとしたら論外です。

 送料無料と布施なき経の話を同じレベルで論じることはできません。しかし商品販売を考えるとき、商品という存在、作る人・運ぶ人・売る人という存在、消費者という3つの存在が、適正に評価され、誰もが納得できる関係性であるべきでしょう。それは布施の三輪清浄にも通じるものです。我々僧侶も「布施なき経は読むべからず」といわれるように、決して「僧侶無料」にはならないのですから。

 それでは又、7月11日よりお耳にかかりましょう。

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