テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1270話】「慈悲の二刀流」 2023(令和5)年4月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1270話です。

 「それは漫画だ」とは、ありもしないことを誇張して表現しているようなときに使います。それなのに漫画の世界を超えた現実を見せつけた人がいます。侍ジャパンの大谷翔平選手です。ワールド・ベースボール・クラシックでのアメリカとの決勝戦。1点リードの9回に抑えの投手として登場。しかもユニフォームは泥だらけです。普通途中から出場する投手のユニフォームはきれいなはずです。しかし、大谷選手はそれまで打者として試合に出ていたので、泥だらけだったのです。

 もはや打者と投手の二刀流は大谷選手の代名詞です。その勲章のような泥だらけのユニフォームで、アメリカの最後の打者でスーパースターと言われるトラウト選手に真っ向勝負で挑み、見事三振に打ち取り、日本を世界一に導きました。

 アメリカの打線は史上最強と称されていました。そして大谷選手は決勝戦が始まる円陣の前で言います。「今日だけは憧れるのはやめましょう。アメリカチームには、誰しも聞いたことがあるような選手たちがいるけど、憧れてしまったら越えられない」。憧れの選手と野球をやったというだけで満足してはいけない。その選手に勝たなければいけないということでしょう。

 大谷選手は優勝までの全7試合で安打を打ち、打率は4割3分5厘、8打点、1ホームラン、1盗塁。投手としては3試合に登板して防御率1.86、2勝1セーブ、11奪三振というとんでもない成績を残しました。当然最優秀選手に選ばれました。これからは世界中の野球選手が憧れることでしょう。

 さて、4月8日はお釈迦さまのお生まれになった日です。お釈迦さまも二刀流と称されるほどの存在感をもって生まれたたと伝えられています。釈迦族の王子として生まれ、シッダールタ(目的を達成する者)と名付けられました。父の浄飯王(じょうぼんおう)は、賢そうな王子を見て、将来を占ってもらおうと、国一番の占い師アシダ仙人に依頼します。すると「将来は全世界を支配する王となるか、無上の悟りを開かれる仏陀となられるでしょう」と告げられました。王と仏陀の二刀流は可能でしょうか。

 当然浄飯王は支配者になってもらおうと文武両道の英才教育を施します。王子は瞬く間に道を究めます。しかし、真に求めていたのはなぜ生きるか、幸せは何かということでした。29歳で出家し、35歳で悟りを開き、仏陀となられました。

 幼い時から生老病死に対する不安があり、それに打ち勝って迷いを超えることが悟りであるとの信念を貫いたのです。世界の支配者に憧れることはせず、お釈迦さまは慈悲という二刀流を駆使されました。慈悲の慈は喜びを与え、悲は苦しみを除くという意味があります。人の心に住む迷いや悩みという悪魔を退治して、しあわせになる二刀流です。私たちもお釈迦さまに憧れるだけではなく、慈悲という二刀流を錆び付かせないように、日々精進いたしましょう。

 それでは又、4月11日よりお耳にかかりましょう。

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