テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1267話】「希望に勝る意志」 2023(令和5)年3月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1267話です。

 先日、東日本大震災に関して、地元テレビ局のアナウンサーから取材を受けました。終わってから逆取材をして、彼女に震災の時のことを聞いてみました。当時彼女は仙台市の中学3年生とのこと。震災の翌日に卒業式を控えていたのですが、当然行われませんでした。「私、中学を卒業していないんです」と言うのでした。

 あの時中学生だった子が、今や報道の第一線で活躍して、震災を伝えてくれるということに、感慨深いものがありました。あれから丸12年が経ちました。今の小学生のほとんどの子はまだ生まれていなかった頃の出来事なのです。これからは、そういう人たちが増え、震災を知る人が年々少なくなるということです。

 今年は震災で亡くなった方の13回忌ということで、供養が続いています。Tさんは家族4人が犠牲になりました。当時家には、奥さんと長女、そして嫁いでいた次女が出産をして、赤ちゃんを連れて里帰りをしていました。新しい命を囲みながら、和やかな時間を過ごしていたはずです。惨いことにその4人を大津波は襲ったのです。赤ちゃんの遺体はまだ見つかっていません。

 その4人のご法事に親戚の方も参列しました。位牌や写真を飾って準備をしているとき、親戚の男の子たちが寄ってきました。幼稚園くらいの男の子が言いました。「あっ、震災で亡くなった人だ」。そしたら、小学3年生くらいのお兄ちゃんが、こつんと男の子の頭を叩いて「こら、みんな家族なんだぞ」と諭すように言いました。弟はたくさん並んだ写真を常に見ていて、震災で亡くなった人だということを、教えられていたのでしょう。お兄ちゃんはお兄ちゃんで、「『震災で亡くなった』なんて簡単に言うなよ。みんな家族だったんだぞ。ぼくたちだって、その親戚だから家族と同じなんだよ」との思いがあったのかもしれません。

 この家族そして親戚の人たちは、大震災という出来事と尊い命がたくさん失われたという事実を、きちんと伝え続けてきているのでしょう。時間は様々なものを洗い流したり、新しいものを生み出したりします。意識的に伝えなければ、あっという間に忘れ去られます。その当時のことを知らなければ、忘れる以前の話です。まだ10歳にも満たないだろう男の子たちが、震災の話をできることに、驚きを隠せません。それより亡くなった親戚の人を、自分たちの家族なんだよと意識している健気さに、感動すら覚えます。

 Tさんばかりではなく、震災の被災者はどなたも絶望を味わいました。しかし、皆ここまで歩んできました。こんな言葉があります。「人が止まるのは絶望ではなく あきらめだ 人が進むのは 希望ではなく 意志である」。希望などと言うきれいな言葉だけでは進めません。あきらめない強い意志の持ち主が、亡き人を供養し、その姿で震災を次の世代に伝えています。

 それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。

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