テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1242話】「命の50分間」 2022(令和4)年6月21日~30日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1242話です。

 小学校の授業時間は45分間です。それより長い50分間を、大川小学校の子どもたちは、あの時どんな思いで、校庭にいたのでしょうか。地震の後の不安と寒さの中、ただ先生の指示を待つだけでした。

 宮城県石巻市大川小学校は、東日本大震災の大津波に襲われて、犠牲になった子どもは74人、先生は10人です。奇跡的に子ども4人と先生1人が助かりましたが、学校管理下でこのような犠牲を出したのは、大川小学校以外にはありません。

 私は同じ宮城県にいながら、この11年間どうしても、そちらには足が向きませんでした。地元や寺の復興に力を尽くすことを最優先にしてきた事情もあります。しかし、この度、様々な気持ちの整理がついたとの思いもあって、青年僧侶の研修会に同行して、現地を訪れました。

 はっきり言って、分かったことは何もありません。分からないことが更に深まったという印象でした。震災前の大川小学校の学校生活がどうだったのか。地域の人々の暮らしぶりはどうだったのか。失礼ながら大川小学校の存在すら知らなかった者が、簡単に判断を下せるものは何もありません。

 ただ50分間は決して短い時間ではありません。少なくとも11人の先生が力をあわせれば、次善の策を講じることができたはずです。悲しいかな、50分待ってやっと行動を起こして、その1分後、距離にしてわずか150㍍移動しただけで、あまたの命が大津波に飲み込まれてしまったのです。しかも避難しようとした方角は、山ではなく川だったのです。当時の宮城県のハザードマップでは、大川小学校に津波は到達せず、避難所にもなっていたのです。避難するかどうか、どこに避難するか、迷いに迷っていたことは、察しがつきます。それは普段の備えとその場を統率する者の欠如がもたらしたのではないでしょうか。私が現場に立ってみた限りでは、避難すべきところは、山しかないと思えました。

 事実「山に逃げよう」と訴えた子どももいたといいます。その声を信念をもって否定したのならともかく、避難点検もせず、誰も腹をくくる覚悟がなく、時間をやり過ごしていたような気がしてなりません。地元で生まれ伸び伸びと育った子どもたちの感性は、危機管理においても、先生より純粋だったと言えます。

 画家の山下清が入園した障害者施設で千葉県にある八幡(やわた)学園には「踏むな 育てよ 水そそげ」という標語が掲げてあります。大人や先生というしがらみで、大事なものを踏みつけることなく、子どもたちの純粋な芽を育てる水遣りこそ教育の原点です。その先には、子どもの命を守ることを第一番に考えるという使命が見えます。小学校の立地条件はそれぞれですが、そこに集う子どもたちの純粋さはみな同じです。どこか山下清の絵に似ている「雨ニモマケズ風ニモマケズ」という大川小学校の子どもたちが描いた壁画も、波に砕かれていました。やるせなさが募ります。

 それでは又、7月1日よりお耳にかかりましょう。



大川小学校の壁画

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