テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1231話】「大きな笠の中」 2022(令和4)年3月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1231話です。

 お寺には山の名前を冠した山号があります。徳本寺の末寺の徳泉寺は「笠野山」で、笠野という地名が由来です。山はありませんが海があります。そのため、11年前の東日本大震災の大津波で、本堂も何もかも流されました。周りの檀家さんの家も全て流出です。現在は災害危険区域になって、人が住まいすることができません。

 しかし、徳泉寺の本尊さまは、寺から2㌔ほど離れた所で、奇跡的に無事発見されました。どんな災難に遭っても、みなさまの心の拠り処となる一心で踏み止まったと信じて、「一心本尊」と名付けました。その本尊さまの下に、全国のみなさまが「はがき一文字写経」を納経して下さったおかげで、寺を再建することができました。

 復興の過程で思い続けてきたことは、笠野山という山号額を本堂に掲げたいということでした。今や笠野という地区に住民はいません。でも確かにここに生活していたという証として、地名だけでも残しておきたいというのが、人々の願いでした。おかげさまでその願いが叶い、再建された本堂には「笠野山」という堂々たる山号額が輝いています。

 同じように、笠野という地名を残したいと思っている人がいました。檀家の齋藤順子さん一家は、自宅が津波で床上まで浸水したものの、何とか無事だったので、修復して住まい続けています。周りはポツリポツリ残った家があるだけで、昔の面影はありません。そんなところに順子さんは、何とパン屋とキャンプ場を開いたのです。その名も「CaSaNo-Va」といいます。カサノバはイタリアの小説家でプレーボーイとして有名な名前ですが、バラの品種名にもあり、花言葉はあなたを愛しますとか、力を尽くす献身という意味があります。ともかく、「笠野という場」をアピールしたいということで「カサノ・バ」と名付けたその心意気や良しです。

 キャンプ場には県外から訪れる人もいて、知る人ぞ知りところになっています。トレーラーハウスのパン屋は、ゴボウを載せたものやレーズンバターが入ったものなどユニーク且つ美味しい品揃えです。朝2時に起きて一人で仕込み焼いているその意気込みが伝わる味です。そこで笠野をアピールする者同士、お寺でパン屋を開こうということになりました。試みに3月11日に行われる東日本大震災復興祈願法要の折に、「CaSaNo-Va」の移動販売を行います。

 実は流された一心本尊さんが見つかったのは、順子さんのお宅のまさにパン屋があった辺りだったのです。因縁浅からぬ巡り合いです。本尊さんもパンも大きな笠の中にいるかのようです。まるで相合い傘です。本尊さんは慈悲という愛で人々の心を、パンは滋味という愛でお腹を満たしてくれます。

 それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。

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