テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1226話】「師弟のナビゲーション」 2022(令和4)年1月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1226話です。

 「お寺でーす」と元気のいい声が、檀家さんの玄関先に響きました。おそらく檀家さんは、「あれ、今年の年始廻りの和尚さんの声が、ちょっと違うな」と思ったことでしょう。実は昨年縁あって徳本寺に弟子を迎えました。仙台市出身の小林信眼さん27歳です。その彼と一緒に年始廻りして、正月のお札を檀家さんにお配りしたわけです。

 信眼さんはまだ地元の地理にも不案内ですし、檀家さんの顔も家もわかるはずがありません。私が道案内をしながら、一軒一軒の檀家さんの家を訪ねてもらいました。若いということは素晴らしいものです。時折雪がちらつく中でも、精一杯挨拶をし、軒並み続いているところは、小走りに移動して、お札を配っていました。

 初対面の方ばかりですので、檀家さんの反応も様々でした。どこの和尚さんなのだろうと訝しがる人もいました。勿論快く迎えてくださる方、気さくに話しかけてくる方もたくさんいらっしゃいました。中にはお寺の後継者が決まったことを喜び、目を潤ませながら手を合わせてくださる方もいたほどです。信眼さんも見るもの聞くもの、全てが新鮮さと驚きに満ちていたことでしょう。一人ひとりの方と実際にお会いして言葉を交わし、多少なりとも家の様子を記憶することができたことは、何よりの財産になります。

 徳本寺の弟子として、寺を護っていくためには、檀家さんのことをしっかり把握して、一日も早くみなさんに馴染み、自分の存在を知っていただくことです。師匠としてその第一歩を示す意味で、年始廻りの行に導いたわけです。ただそれは導いたというだけで、車で言えばナビゲーションの役割を担った程度かもしれません。目的地までの道案内だけなら、師匠という立場でない人でもできるでしょう。

 本来の師匠と弟子には、もっと厳しい関係性が求められます。単なる師匠ではなく、正しい師という「正師」という存在です。道元禅師は「学道用心集」の中で「正師を得ずんば学ばざるに如(し)かず」とお示しです。正しい師匠のもとでなければ、学んでいないと同じことだというのです。そして正師とは「我見に拘(かか)わらず、常識に滞(とどこ)らず、行解相応(ぎょうげそうおう)する人」つまり、個人的な意見や感情に流されずに、言うことと行うことが一致している人だというのです。確かに言行が一致していない人は信用されません。

 師匠は弟子の単なるナビゲーションだけではないわけです。少なくとも、言うことと行うことが一致して、弟子に信用されることが肝心です。それを見習えば、弟子も檀家さんに信用されるわけです。今後徳本寺では、弟子も師匠も「お寺でーす」と言って、みなさんになびいていただけるような、ナビゲーションを心がけてまいります。

 ここでお知らせいたします。12月のカンボジアエコー募金は、489回×3円で1,467円でした。ありがとうございました。それでは又、1月21日よりお耳にかかりましょう。

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